海外社会貢献者からのメッセージ
Q. 世界を活動の場とする社会貢献者にとって、この国はどのような場所ですか?
スペインは一つの国とは思えないほど、多種多様な文化が入り混じった土地です。地中海と大西洋に囲まれ、ヨーロッパの中でも最南端に位置することから、古来さまざまな民族が行き交う場所でした。
そのため、南ではアラブやアフリカ大陸からの文化が色濃く残り、北はフランスやポルトガル寄りの文化を垣間見ることができます。それらは建築様式、食事、地方言語や人々の生活にも影響を与えているため、国内を旅行して周るとまるで他の国を旅しているかのような感覚になります。
スペインに住む日本人は9,000人ほどで、主にマドリードやバルセロナなどの都市部に集中しています。20世紀中頃に存在した独裁政権の影響で文化の多様性は歓迎されないムードにあったため、日本人を含む外国人がスペイン移り住むようになったのはわりと最近のことです。
私の暮らすガリシア州北部のラコルーニャで日本人や他のアジア人を見かけることはほとんどありませんが、主にアフリカ圏や南米からの移民が増えています。
そういう背景があるので、移住してきた方たちに向けたボランティアのニーズが近年増加していると言えます。難民の受入国でもあるスペインでは、英語やピジン英語を使うボランティアに特に需要があります。
文化
Q. 現地の人々の気質や考え方にはどんな傾向がありますか?
「情熱の国」や「太陽の国」と呼ばれているように、性格はラテン気質で明るく、人懐っこいのがスペイン人の特徴です。小さなことは気にせず、深刻な話題が持ちあがっても話の最後には誰かが冗談を言って、みんなで笑ってシメるところにはいつも感心してしまいます。
ゆったりとした気質なので、時間通りに会えることやスケジュールの正確性は期待できません。予定を立てて待ち合わせをする時も、1週間以上先のことを決めるのはごく稀です。
また、「情熱の国」だけあって感情や意見をはっきりと表すのもスペイン人の特徴のひとつです。怒っているのかとびっくりすることもありますが、逆に言えば、考えていることが表情に出やすく、分かりやすい人達でもあります。
分かりやすいといえば、他人や何かを「じろじろと見る」ことが無礼だという認識もないので、興味があるものは遠慮なくじっと見るのも特徴です。見て見ぬ振りをする日本の文化とは真逆ですが、興味の対象が分かりやすい所はチャーミングな一面です。ちなみにスペイン語には「じろじろ見る」または「凝視する」を意味する動詞自体が存在しません。
Q. 現地の食文化はどのようなものですか?
スペイン料理というとパエリアやガスパチョが有名ですが、パエリアは東部バレンシアの、ガスパチョは南海岸アンダルシアの地方料理です。
北部バスク地方のピンチョスやサラマンカのイベリコ豚など、料理を通してその地方の特色を楽しむことができるのはスペインの素晴らしいところです。
海に面している部分が多いため、一般的に魚介類を食す地域が多く、その面では日本人にも馴染みやすいと言えます。
オリーブオイルの生産量は世界一で、特に南スペインのものは質が良いことで知られています。生でも食し、料理にもよく使うので、家庭に3〜5Lクラスの大きさのものを常備します。
もうひとつの特色は、スペイン人は「外で生きている」と言われるほどテラス席などで食事をしたり、友人と飲み物を飲んだりしながら過ごすのが大好きです。
ビールやワイン、コーヒーなどドリンクのみの注文にも、タパスというおつまみが1皿、またはボジェリアという菓子パンのようなおまけが必ずついてくるので、おかわりをしながら何時間も過ごしてしまいます。
仕事よりも家族や友人とそうした時間を過ごすことを生活の中で大切にしていて、これこそが「カリダ・デ・ビダ (quality of life)」だと口癖のように言います。
Q. 現地の人々はどのような生活習慣や宗教観を持っていますか? 現地特有のマナーなどはありますか?
日本から来て一番戸惑うのは食事の時間帯です。昼食はスペイン人にとってとても大事なので、2時から4時までゆったりと時間を取り、アペタイザーとメインの計2皿、さらにデザートを食べます。
その間はドラッグストアや花屋なども閉まります。スーパーやデパートは1日中空いていますが、ほとんどのお店は5時まで開かない為、買い物へ行く時間に気をつけなければいけません。
夕食は一般的に10時からなので、早く夕飯を食べたくてもレストランで食事ができるのは夜8時からです。朝から昼食までが長いので、会社や学校でも朝11時には決まってサンドイッチや果物、クッキーなどの軽食を仲間と一緒にとります。
もうひとつの特色となる習慣は、友達や親族と会った時に交わされるベソス (頬にするキス)とハグです。私はまだリズム良くできず、照れてしまうことが多々ありますが、みんなが順番に挨拶を交わしているのに自分だけがしないと、何かの理由でその人を避けているような印象を与えてしまうこともあります。
メジャーな宗教はキリスト教で、国民の70%がカトリック教徒です。スペインの祝日もイースター (semana santa)や聖ヨハネ(San Juan)など教会と関係のある祭日が多いのが特徴です。ただ、日本と似ているのは行事やお祭りを楽しむことが一番の関心時となっていて、熱心に教会へミサを聞きに行くような人は多くいません。
気候
Q. 現地はどのような気候ですか? 健康維持のために気を付けるべきことはありますか?
スペインも日本のように四季がありますが、それぞれの地域によって気温や湿度に大きな差があります。
南スペインのセビージャやコルドバでは真夏に40℃を超えますが、湿度は低いので日陰で風のある所に入れば爽やかに感じられ、夜も20℃を切るため快適に過ごせます。
太陽のイメージがあるスペインですが、北部のガリシア州やバスク地方では雨が多く湿度が高いのが特徴です。私も北部に住んでいるので、冬には部屋に除湿機が必要になります。気温はさほど下がらず、最低気温が10℃を切るくらいでも湿度が高いため、実際の気温よりも肌寒く感じられるからです。
どこの地域でも欠かせないのは日焼け止めやサングラスです。季節に関わらず、見た目や体感よりもずっと日差しが強いので、肌や目を保護する必要があります。
台風や地震などの自然災害は日本と比べてとても少なく、ほとんど起きません。つい先日ガリシア州でマグニチュード4.4の小さな地震があった時には、ニュースで「1994年以来、27年ぶりの地震」と報道されていました。ちなみに、その27年前の地震のマグニチュードは3.7だったそうです。
Q. 現地特有の風土病はありますか? 健康維持のために役立つ対処方法はありますか?
特にありません。
言語
Q. 現地の人々はどのような言語を用いていますか? 外国人にとって、現地の言語を学ぶ際に、どんなハードルがありますか?
公用語はスペイン語です。これに加えてそれぞれの地域に地方語が存在し、公用語となっています。カタルーニャ語、バスク語、ガリシア語やバレンシア語などがあり、学校でもスペイン語と並んで必修科目です。
そのため、日本の方言よりも強く生活に根付いており、スペイン人も地方語を1つの公用語と認識し、誇りを持っています。日常会話でも頻繁に用いられ、店舗内の案内などもスペイン語と地方語の両方で表示されています。
スペイン語は書かれている通りにローマ字読み出来るという点では、日本人にとって習得しやすいと言えます。ただし「L」と「R」の発音の難しさや「H」を発音しない点など、克服しづらい点もあります。
ラテン語特有の動詞の活用の複雑さや冠詞をつけ忘れるなど、何年学んでいても課題に感じる点はありますが、スペイン人特有の間違いを恐れずどんどん話す!という姿勢に感化されて、そのうちあまり気にならなくなりますよ。
留学で、特にスペイン語の取得のためにこちらに住む場合、強いアクセント(訛り)がない地域を選ぶことが薦められています。
スタンダードなスペイン語を取得出来るのはサラマンカやレオンなどがあるカスティーヤ地方(Castilla y León)で、実際にサラマンカには日本からの留学生も多くいます。反対にカナリア諸島やアンダルシアはその訛りの強さで有名なので、話し始めた途端に「カナリア出身でしょ?」とよくつっこまれています。
生活
Q. 現地の人々の生活水準はどうですか?
一般的なスペイン人の平均収入は日本の約2/3と言われています。2012年に経済危機を経験してから、失業率がヨーロッパの中でも高い国のままなので、人々の仕事を得ることへの考え方は日本よりもストイックに見えます。
IVAと呼ばれる消費税は超軽減税率、軽減税率、標準税率の順に4%、10%、21%となっています。
生活に欠かせないものや暮らしを支える物には軽い税率が、衣服やアルコールなどの嗜好品には一番高い税率がかけられています。野菜や果物などは税率が超軽減税率にあたる4%だけで、その上元の値段もかなり安いので、たまに日本へ帰るとその値段の高さに驚いてしまいます。
失業率が高い影響からか、見た感じは普通の若い人に、道で急に「サンドイッチを買うお金をください」と頼まれることもあり最初は戸惑いました。
そうかと思えば、一般家庭や若い共働きの夫婦、またアパートに1人暮らしの人でもクリーニングレディ (chica de limpieza)をパートで雇い、掃除や洗濯、アイロンがけをお願いするという生活が一般的です。休みの日や週末には、家事に追われずゆっくり過ごせるようにというお金の使い方かもしれません。
Q. 現地の人々の教育水準はどうですか?
スペインの教育は初等教育、中等教育、高等学校、大学の6・4・2・4(6)年制で、義務教育は初等教育と中等教育の10年間とされています。日本の中学校が3年制なのに対してスペインの中等教育は4年制です。
0〜3歳には幼稚園(Guardería)、3〜6歳には幼児学校(Escuela Infantil)があり、共に義務教育ではないものの、幼児学校は小学校の校舎で行われ、学校生活の習慣が身につくという理由から就学率はほぼ100%です。
ちなみにスペインでEscuela(エスクエラ)は学校という意味なので、親や子供も3歳から「学校へ行く」と言いますが、それは小学校ではなく幼児学校という意味です。
スペイン語と地方言語の次に学ぶ言語はフランス語だった期間が長かったため、一般的に英語が話せる人は多くいません。特に年配の方になると、英語は話せないけどフランス語は話せる、という方が多くいます。
今は英語教育がかなり進んでいて、幼児学校から始まり、小学校では算数、理科や歴史などの教科も英語で授業を行なっています。
言語同様、教育制度も各地方によって違いがありますが、中等教育の最初の3年間はみんなが同じ教科を学び、最後の1年は職業準備コースと大学進学コースに分かれます。高等学校から職人用と大学進学準備にはっきり分かれるため、その準備の1年でもあります。さまざまな選択肢があるのはスペインの教育制度の良いところでもあります。
Q. 現地の治安水準はどうですか? 外国人が特に気を付けるべきことはありますか?
私の暮らしているラコルーニャはガリシア州でも最北端の小さな街なので、比較的安全に感じます。
都市部のマドリードやバルセロナではひったくりやスリなどの軽犯罪は頻繁に起こりますが、それに比べて重犯罪の暴力事件などは少ないと思います。
小さな街でも気を抜けないのは、見た目は普通の通行人やバルで隣のテーブルにいるような人がスリをすることです。
特に外国人が少なく、目立つような地域や観光地では荷物を目の届く場所に置いて、できれば手元から離さないこと、何分かに一回はちゃんとそこにあるか確認することをお勧めします。
私も知り合いしかいなかったような場所で携帯電話をすられたことがあります。幸いなことに、その機種を購入した際に保険に加入しており、その保険は「盗難」も対象だったため、スムーズに新しいものと交換できました。
Q. 現地の住居や住環境の様子どうですか?
住居のタイプはピソ(Piso)と呼ばれるアパートメントか一戸建てがほとんどです。どちらにしてもとにかく広く、1人暮らし用のアパートメントでもワンルームという物件は見たことがありません。
最低でもリビングに寝室、キッチンとバスルームに分かれているのは良いところです。そのかわりお風呂に浸かるという習慣がないので、バスタブがある物件は稀少です。賃貸の場合、だいたいの物件が家具付きなので、冷蔵庫、洗濯機、ソファやベッドなどを買い揃える必要がありません。
物件探しから賃貸契約までの流れは日本とさほど変わりません。不動産屋さんか仲介業の方と内見をしてからオーナーと契約という形で、敷金や礼金のシステムも似ています。
唯一違うのはアバル バンカリオ(Aval bancario)という銀行保証で、借りる側が3〜6ヶ月ぶんの家賃を銀行に預けなければいけないというシステムです。全ての物件がこれを条件にするわけではありませんが、移住するときの最初の資金を計算する際にこういうこともあると覚えておいた方が良いかもしれません。
アパートメントの入り口にはインターホンと内側からしか開けられないドアがあり、どんなに古い物件でも日本でいうオートロックのようなつくりです。
各地方の特色としては、南スペインの一戸建てにはパティオ(Patios)という庭のような中庭がある家が多く、花や緑を美しく飾りつけて一般に公開するパティオ祭りというイベントもあります。
ガリシア州北部の港沿いにはガレリア(Galerías)という白塗りの出窓がバルコニーとして並び、部屋の中に太陽光を取り入れる仕組みになっています。
Q. 現地の生活インフラ(水道・電気・ガス・インターネット)はどの程度整っていますか?
全て十分に整っています。断水したり停電になったりしたことはここ10年で1度もありません。
オール電化になっている家やアパートが多く、キッチンはIH、お湯を出す時も電気でお湯を温め貯めておくタンクがあり、暖房は備え付けのオイルヒーターを使います。電気代は最近値上げがあり、使う時間帯によって値段が違うという不思議なシステムになりました。
インターネットは光ファイバーが主流で、各社が価格競争をしているので、キャンペーンなどの機会にうまく乗り換えて上手にやりくりされている方が多いです。一時的に繋がりづらいなど問題があっても、Whatsappなどのチャット機能で問い合わせを受け付けており、早いタイミングでトラブルの解決をしてくれる為、スペイン語が完璧でない私にはとっても助かっています。
Q. 現地のレストランやファーストフード店、露店など食品を扱う店の衛生状態はどうですか?
基本的に問題ありません。
個人的に気をつけているのは、食事そのものよりも座る椅子やテーブルの衛生状態です。テラス席の時は特に気をつけて、なるべく清潔に掃除されているところに座るようにしています。
トイレに入る時も、ドアノブや手すりなど手を置くところに気をつけ、用を足す前にちゃんと紙があるかも確認したほうがいいです。
すごく気になる方は、瓶ビールなどを頼んでグラスが一緒に運ばれてきても、グラスには注がずに直接瓶から飲んでいます。
料理に関しては、食事の半ばで「どうですか、おいしいですか?」とウエイターが聞いてくることが多いので、もし生焼けだったり、何かの都合で変えて欲しい場合があったりしても頼みやすいです。嫌な顔せずに取り替えてくれますよ。
Q. 生活に必要な安全な飲用水はどのように調達しますか?
スペインの水道水は地域によって水の硬度が異なるため、飲める軟水の地域と飲めない硬水の地域があります。
飲めるエリアは北部やマドリードとその周辺、南部とカナリア諸島で、日本のような軟水や中軟水が水道から出ます。においも全く気にならない、おいしい水が飲めます。
飲めない地域は簡単に言うとスペインの東側で、バルセロナがあるカタルーニャ州やバレンシアから内陸にかけてのエリアです。水道水の硬度が高いので、石鹸が泡立たなかったり、お腹を壊してしまったりする場合もあるそうです。
それらの地方では、ブリタのような浄水器を使うか、ミネラルウォーターを買う必要があります。ミネラルウォーターはスーパーやキヨスクなど、どこでも安く手に入ります。5Lのボトルが1ユーロで購入できます。
Q. 現地の交通事情や交通機関の様子はどうですか?
公共の交通機関にはレンフェ(Renfe)やアヴェ(Ave)などの鉄道、市バスや遠距離バス、国内線の飛行機やレンタル自転車、UberやCabifyなどのタクシーサービスがあり、都市部にはメトロもあります。
私はよく市バスを利用しますが、時刻表のようなものはなく、携帯のアプリにそれぞれのバスがあと何分後にバス停に着くか、今どこを走っているかをリアルタイムで表示するシステムです。
現在地から一番近いバス停も、アプリが探して案内してくれるため大変便利で、料金はバスカード利用で一律75セントです。
街と街を繋ぐ公共の乗り物がない場合もあり、車はその点で便利ですが、一般的に運転がかなり荒いです。スピードの出し過ぎやよそ見などの不注意もありますが、路上駐車をする時に前にも後ろにもコツンコツンとぶつけてしまうのは日常茶飯事です。
そのため、全く傷のない車はあまり見かけません。また、地域や範囲によって高速道路(Autopista)の料金がとても高いので、暮らす街の利便性を考えて車を持つかどうかを決める必要があります。
運転は荒くても、歩行者優先なのは良いところです。信号のない横断歩道では、歩行者を見ると車は必ず止まります。
車のクラクションを多用するのもスペイン人の特徴です。危険を伝えたりする通常の使い方の他に、道で知り合いを見つけた時の挨拶がわりに短く鳴らしたり、サッカーの試合に勝った日は音楽のように鳴らしながらご機嫌に走る車も目にします。
Q. 現地の医療水準はどうですか? 医療費は高額ですか?
スペインの医療制度は評判がよく、水準も高いです。イギリスがまだヨーロッパ連合の加盟国だったころにはその評判から、手術や治療を受けにくるイギリス人がスペイン北東部に多かったくらいです。
スペインの医療制度には公的医療機関(Publicó)と民間医療保険(Privado)があります。社会保障(Seguridad Sociales)に税金を支払い加入している限り、全ての人が公的医療機関を利用でき、治療や手術、出産やワクチンなど全て無料です。
ではなぜ民間医療保険が存在しているかというと、特に専門医や精密検査の予約が取りづらく、半年以上待たされることがあるからです。
民間医療保険に加入していれば素早く、丁寧に診察してくれること、また公的医療機関で歯科はカバーされず、民間医療保険で歯科が含められたパッケージが存在していることから、公的医療機関と民間医療保険の両方に加入している人が多いです。民間医療保険は手頃なもので月40ユーロからあります。
覚えておいたほうがいい点として、急に体調が悪くなって救急外来(Urgencia)に行く場合、かなり待たされることがあるということです。ちょっと体調が悪くなった人もみんな救急外来に来てしまうためです。そのためぎりぎりまで我慢せずゆとりをもって、できれば飲み物なども持って出掛けることをお勧めします。
執筆者:M.U
執筆年月:2021年11月