海外社会貢献者からのメッセージ
Q. 世界を活動の場とする社会貢献者にとって、この国はどのような場所ですか?
香港はかつてイギリスの統治下にあり、また現在世界経済の中心地でもあるという背景から、非常に国際的な都市です。街で見かける人も多岐にわたり、いろいろな言語が聞こえてきます。人口の10パーセントあまりの60万人以上が非華人、つまり外国人だという統計があります。その内訳は、30%がフィリピン、30%がインドネシアとなっており、日本人も少なくとも2万人は住んでいるという統計があります。その文化的な多様性から、いろいろな考えを受け入れ、尊重し合うという文化があるように感じられます。フィリピンやインドネシアから来ている人のほとんどは、ベビーシッターやヘルパーとして来ています。
香港は、国際都市としての特色ゆえに、人々の間の橋渡しをする多言語ができる通訳などのボランティアのニーズが高いです。医療や建設技術は先進的で発達しているとはいえ、近年環境汚染のゆえに自然環境保護の機運が高まっており、清掃活動に積極的に参加する人も少なからずいます。
人々は毎日非常に忙しくストレスの多い生活を送っています。生活が便利な反面、家賃が非常に高いという欠点があります。家賃が高いことが、社会貢献者が香港で活動しようとする場合の一番のネックになっています。詳しくは後述しますが、日本のマーケットや量販店もあり、日本のものはほとんど何でも手に入ります。公用語は広東語と英語ですが、北京語も多くの人は解することができ、言語面では日本人にとって比較的ハードルが低い所と言えると思います。
文化
Q. 現地の人々の気質や考え方にはどんな傾向がありますか?
昨今の政治情勢ゆえに、情勢の変化には敏感な人が多いです。ニュースで報道されたように、暴動で破壊行為が行われたりしました。現在はコロナ禍、また国家安全法という新たな法律が施行されたことにより、暴動は影を潜めている状況です。日常生活に特段の支障をきたすようなことはここのところ起きていません。
もともとイギリスの統治下にあったこともあり、自由を重視するという風潮が強いと考えられます。年配の人から学生に至るまで政治に関心を持っている人がとても多い印象です。その一方で、中国大陸にルーツを持つ人も少なからずいるので、様々な立場や考えの人がいます。時として、その意見の違いがデモや小競り合いという形で現れることも現実としてあります。日本と違って、人の目を気にするということはあまりなく、人は人、自分は自分という考え方をしている人が多い印象です。
Q. 現地の食文化はどのようなものですか?
ここ香港は世界中のグルメが集まっているところといってもいいでしょう。中華が基本ですが、イギリス領だったことや、西洋系の人も多いことから洋食のお店も非常に多いです。また、インド人も一定数居住しており、インドカレーなど本場のインド料理が食べられます。日本から直接空輸した食材を使った和食レストランもたくさんありますが、非常に高いです。
日系スーパーとしては、イオンやドンキホーテ、APITAなどが進出しており、日本のスーパーや百貨店で売っているようなものはほとんど何でも手に入ります。また、値段も価格競争が激しいためか、お手頃で手に入ります。日本に帰国したときに、調味料や化粧品やおやつなどを全然買わなくてもよいくらいです。
ローカルの香港人は乾物が大好きです。例えば、魚介をはじめとして、肉、果物、野菜などの乾物を常に台所に備蓄している印象です。ヤムチャが有名で、比較的手ごろな価格(一人当たり1,000円くらいから)楽しめます。下午茶(アフタヌーンティー)の文化もあります。これは、スイーツと紅茶の優雅なものというより、軽食とお茶のセットのことです。外食するなら、一食450円~1,000円くらいで、トータルで見ると、自炊したほうが少し安くつきます。
Q. 現地の人々はどのような生活習慣や宗教観を持っていますか? 現地特有のマナーなどはありますか?
香港の多くの人々の特徴としては、常にせかせかしていて、効率重視という言葉が良くあてはまると思います。一例として、エスカレーターのスピードは日本の約2倍ほどです。初めての方は、つまずかないように気を付けなければなりません。また、地下鉄でもまだ中の人が降りていないのに、どんどん入ってくるということがよくあります。
宗教としては、主に伝統的な華人の仏教及び道教信仰と、キリスト教(特にカトリック)の二つがあります。キリスト教系の学校も多いです。同じ中華圏の台湾と比較するなら、仏教や道教はそれほど強くないです。おそらく、イギリスの統治下だったことが関係しているものと思われます。
特に現地特有のマナーはありませんが、年齢や職業などプライベートなことをあまり知り合っていない段階で聞くことは避けた方がいいでしょう。
気候
Q. 現地はどのような気候ですか? 健康維持のために気を付けるべきことはありますか?
一年を通じて高温多湿です。夏の最高気温は約35、36度ほどです。ほとんどの場所がコンクリートジャングルであることから、実際の体感温度はそれ以上です。冬一番寒い時の最低気温は8度ほどです。4月末くらいから30度を超える日が出てきて、10月中旬くらいまで暑い日が続きます。また、6月から8月にかけて突然のゲリラ豪雨に見舞われることも多くなります。台風の直撃も多く、遮る山などがあまりないことから、大きな被害が出たこともありました。
香港の人たちは暑がりが多いので、夏室内にいるときは冷房が強すぎて寒く感じることもあるほどです。夏とはいえ、羽織れるものを一枚常に携帯していたほうが無難です。
Q. 現地特有の風土病はありますか? 健康維持のために役立つ対処方法はありますか?
特に風土病はありませんが、街に非常に近いところに山や川がありますから、蚊によって媒介されるデング熱などには注意が必要でしょう。また、長期定住者はB型肝炎の予防注射をすることが勧められることがあります。また、水道水は飲用としてWHOの基準を満たしているそうですが、おなかが強くない人はスーパーで飲用水を買うか、浄水器を使用することをお勧めします。
言語
Q. 現地の人々はどのような言語を用いていますか? 外国人にとって、現地の言語を学ぶ際に、どんなハードルがありますか?
公用語は広東語と英語です。これは、香港がイギリス統治下にあった影響です。政府関係の書類には必ず英語と漢字表記がしてあります。ちなみに、お隣の同じく中国の特別行政区であるマカオは、広東語とポルトガル語が公用語です。
ビジネスで北京語を使う人も多く、新移民として中国大陸の方から移住してきている人も多いので、たいていのシチュエーションで北京語が通じます。だたし、地元育ちのお年寄りなどになると、広東語しか話せない人もいます。
全体として香港人の英語のレベルは高く、市場のおばさんでも英語をそこそこ話せたりします。広東語は書き言葉と話し言葉が違うことが多いので、学習のハードルは高いと言えます。とはいえ、北京語を学習したことがある人であれば、学習しやすいと思います。大学の交換留学制度を使ったり、言語センターで学んだり、個人レッスンを受けるなどして広東語を習得する方法があります。
生活
Q. 現地の人々の生活水準はどうですか?
現地の人の生活水準は非常に高いです。2020年の統計によると、香港のフルタイムワーカーの年収平均は、650万円ほどで、世界一だそうです。したがって、購買意欲も高く、有名ブランドの店も多く出店しています。全体として高級志向です。少々高くても日本から直輸入された食品を買うという人も少なからずいます。
また、ここ十数年の不動産価格の高騰しており、不動産を所有している人は所得が非常に高いです。しかし、他の場所と同じく貧富の格差は激しいです。一定の基準を満たした香港永住者に政府の公団が運営する住居を提供する制度もあります。
香港に住んでいて良いと感じるのは、都市と自然が隣り合わせにあることです。ハイキングコースが至る所にあり、一番近いハイキングコースは家から5分のところにあります。便利な都市の生活と、都市の喧騒を離れた時間の両方を楽しめるのが魅力です。
Q. 現地の人々の教育水準はどうですか?
現地の人の教育水準は非常に高く、日本以上に競争社会です。学生はテストと宿題に追われる毎日で、テストの成績と順位をトップからビリまで張り出されるそうで、プレッシャーが非常に大きいです。
幼稚園生から英語をはじめとした外国語などを習わせる親も多く、教育熱心な親が多いです。小学校は学区制ではなく自分で行きたい学校を選択できるようになっています。中学校と高校は中高一貫校が標準です。国際都市であるためインターナショナルスクールもあり、日本人学校も二校あるため、選択肢は多いと言えるでしょう。
公式の大学進学率は17-20パーセントとなっています。低いように見えますが、これは香港にある大学が少なく、多くの学生が留学をすることによります。識字率は95%で、年配の方には文字が読めない方もおられます。
Q. 現地の治安水準はどうですか? 外国人が特に気を付けるべきことはありますか?
治安は良いと思います。夜に公園を歩いても、明るくて安全ですし、身体の安全という点では、問題ないと思います。また、香港は基本的に高層マンションばかりですから、外から家の中に侵入されるということはほぼありません。しかし、来客を装ってビルに侵入する窃盗事件も発生しているので、注意が必要です。
基本的には安全というものの、昨今の情勢不安のために、状況がいつ変わるはわかりません。したがって、ニュースによく通じて、デモなどが発生しやすいところには近づかないのがベストです。警察が定期的にパトロールしていて、身分証の提示を求められることがあるので、常に身分証明書(パスポートなど)を常に携帯しておいた方が無難です。
Q. 現地の住居や住環境の様子どうですか?
香港で生活するのに一番のハードルはやはり家賃の高さです。6畳ほどの広さのワンルームマンションでも、少なくとも12万円以上はします。セキュリティがしっかりした綺麗な2LDKになると、ひと月20万円近くかそれ以上します。決して住環境はいいとは言えません。香港長期在住者の友人の話として、一カ月の家賃の目安は一カ月の収入の60%以下だそうです。敷金は通常は二か月分ですから、借り始めるときには、二か月分の敷金と一カ月目の家賃がかかり、三か月分を払うことになるので、初期費用がかなりかさみます。礼金は一般的にはありません。
ほとんどの場所で、徒歩10分圏内のところに地下鉄の駅またはバス停がありますし、ファーストフード店、スーパー、コンビニともに5分圏内にあります。トイレと風呂場はほぼ必ずと言っていいほど一緒で、分かれていません。大きな部屋をいくつにも小さく区画して貸し出しているところもあり、隣の騒音が問題になるときもあるので、事前にしっかりと確認することをお勧めします。ちなみに、香港は世界で最も住宅価格が高い所だと言われており、新築マンションの平均価格は、1億3,000万円ほどだと言われています。移動を考えた場合、どうしてもこの高い家賃がネックになることが多いです。
Q. 現地の生活インフラ(水道・電気・ガス・インターネット)はどの程度整っていますか?
インフラは基本的にすべて完全に整っています。水道代は世帯の人数にもよりますが、1カ月2,000円以内です。電気代は1キロワット当たり14円です。1カ月の電気代は季節により変動しますが、1万円以内です。ガスがあるマンションとそうでないマンションがあります。新しいマンションには都市ガスが来ていることが多いですが、古いマンションの場合は料理の際には、携帯式のIHヒーターを使うか、ガスを配達してもらう必要があります。家の固定インターネットは、プロバイダにもよりますが、約2,000円から3,000円の間です。モバイルデータは日本のように寡占状態ではなく、価格競争が激しいので、非常に安いです。ちなみに、筆者が使っているのは、1カ月1,100円で使い放題のプランです。
Q. 現地のレストランやファーストフード店、露店など食品を扱う店の衛生状態はどうですか?
日本の衛生状態には及びませんが、基本的に衛生状態は悪くないと思います。ただ、古いビルの一階にレストランがあったりするため、厨房がそれほどきれいではないこともあります。また、台湾や東南アジアにあるような屋台のようなところはほとんどありません。ときどきネズミが路上を散歩している写真と一緒に、衛生を懸念するニュースが報道されることがあります。ただ、それがニュースになるくらいですから、アジアの中では比較的衛生的なのではないかと考えています。
Q. 生活に必要な安全な飲用水はどのように調達しますか?
水道水を飲めないことはないですが、筆者個人はおなかがあまり強い方ではないので、飲用水はスーパーで5リットル入りの水を購入しています。前述のように、水道水も飲めるらしいので、おなかに自信のある方は試してみられるといいと思います。水はやはりカルキのにおいがするので、煮沸するか浄水器を取り付けてその水を飲むようにした方が安全かと思います。
Q. 現地の交通事情や交通機関の様子はどうですか?
香港は交通網が非常に発達しています。主な交通手段は、地下鉄、バス、路面電車、タクシーです。地下鉄は、ほとんどすべての地域に線が伸びていて、本数も3ー5分に一本なので非常に便利です。運賃は、30分乗って200円くらいです。バスは二階建ての大型バスとミニバスがあり、地下鉄でカバーできないところを完璧に網羅しています。
香港らしさをよく感じられるのが、二階建てのバスと路面電車です。路面電車は香港島の端から端まで走っていて、どこまで乗っても40円ほどです。路面電車の二階に乗って、香港の街並みをゆっくりと楽しむのは安くておすすめです。タクシーの初乗りは、24ドル(約330円)からです。物価が高い割にはリーズナブルです。ちなみに、空の便に関してですが、香港は世界有数のハブ空港なので、ビザの旅行にしても普通の旅行にしても便利です。例えば、ベトナムや台湾行きの往復航空券が1万5千円ほどで買えます。
Q. 現地の医療水準はどうですか? 医療費は高額ですか?
現地の医療水準は高いと言えると思います。漢方医と一般のお医者さんの両方がいますが、漢方医に診てもらう人は年配の方が比較的多いです。公立の病院と私立の病院があり、診療費が格段に違います。香港は日本のような医療保険制度がないため、すべて自己負担となります。診療する科にもよると思いますが、3割負担で済む日本と比べると高くつくと思うので、日本の医療保険は残しておいて、緊急の事態以外は日本に帰国した際にまとめて診療してもらうというのが賢いかと思います。
執筆者:KS
執筆年月:2021年2月