海外社会貢献者からのメッセージ
Q. 世界を活動の場とする社会貢献者にとって、この国はどのような場所ですか?
「何もない」がある国、フィンランド。徒歩圏内に必ず自然があるゆったりとした国です。国土のほとんどが森に覆われ、誰でも分け隔てなく受け入れてくれます。たとえ都心でも少し高い所に立ってみれば、地平線のその先にまで広がる森が見えます。
冬になれば一面の雪景色、氷点下にならない所はありません。でもそんな時はサウナと「アヴァント」をお試しあれ。アヴァントとは、氷の張った湖に穴をあけ、サウナで温まってからそこへドボンと入ることです。これは想像以上に快感です。
広大な森林を利用した林業も盛んですが、それ以上に重要なのはハイテク産業です。ITや化学、工学など幅広い分野の専門家を大勢輩出しており、起業を目指す若者への支援も充実しています。
社会貢献に対する意識は非常に高く、フィンランドの8割もの人が何らかの非営利団体に属していると言われています。ですから、日本人がこの国でできる社会貢献はいくつもありますが、特に日芬間の文化交流面での可能性が大きいと思います。日本語教育にも長い歴史があり、小規模ながらも常に需要があります。
文化
Q. 現地の人々の気質や考え方にはどんな傾向がありますか?
自由主義、個人主義が強い為、個人の自由意志を尊重する人が多いです。プライベートを重んじ、他人に対する過度な干渉を嫌い、見知らぬ人とは積極的に会話したがりません(公衆サウナは例外)。一方、一度仲良くなってしまえばかなり饒舌です。新しい繋がりを作るよりも今ある繋がりを大事にする傾向があります。
曖昧な言い回しは好まれず、はっきりと意見を言うのが美徳とされます。日本特有の遠回しな言い方や遠慮は無く、相手もそれを想定していないので気を付けましょう。無理をして「大丈夫、出来る」等と言ってしまうと「自由意思を尊重」されて助けてもらえないことが多いです。
境界線を相手にはっきり分かってもらえれば、相手がそれを超えてくることはありません。ダメなものはダメだと答えるのにも抵抗は無いので、相手に無理をさせてしまわないかと気を使わなくていいのは楽です。
また、ジョークや皮肉に対しても寛容な人が多いです。もちろん言う相手やTPOをわきまえるべきですが、上手く会話の流れに自然に乗せて言うことが出来れば好印象を残すことができます。
Q. 現地の食文化はどのようなものですか?
東西にスウェーデンとロシア、南西にはドイツという大国に挟まれている地理上、食に限らずフィンランドの文化はこの三つの国から大きな影響を受けています。
フィンランドは冬が寒く、夏も夜には涼しくなるので、伝統的にニンジンやジャガイモ、カブ、タマネギといった根菜類を使います。味付けは塩と胡椒が基本ですので、誰にでも取っ付きやすくクセの少ないものが多いです。
国土のほとんどが森に覆われており、湖も多いので、肉、魚、ベリーやキノコなどもふんだんに使います。肉は牛豚鶏の他にも、ヘラジカやトナカイといったジビエ(狩猟肉)も市場などで手に入ります。ベリーはデザートのみならず、ジビエの臭みを緩和するためにも使われます。
現在は物流の発達のおかげで多種多様な食料品が輸入されています。特にアジアの食文化に対する関心が強く、値は張りますが、大型スーパーマーケットに行けば、カップ麺等の日本食品も手に入ります。
体質的、宗教的、その他の理由による食事制限に対する配慮も徹底されており、学校の給食では代替料理が提供され、店頭販売やレストランのメニューにも無乳糖やグルテン除去食品であることが明示されているものがあります。
コーヒーに対する情熱は特筆すべきでしょう。フィンランドは一人当たりのコーヒー消費量が世界一であり、労働者にはコーヒー休憩の権利があると法で定められているほどです。事あるごとにコーヒーが提供されるので、フィンランドで家に客人が来るのであればいつでもコーヒーを淹れられるように準備しておきましょう。もちろんこれにはミルク(あるいはクリーム)と砂糖も含まれています。
Q. 現地の人々はどのような生活習慣や宗教観を持っていますか? 現地特有のマナーなどはありますか?
共働きの家庭が非常に多く、むしろそうでない家庭の方が少ないです。その分男性の育児休暇なども保障されており、平均的な勤務時間そのものも控えめです。
フィンランド福音ルター派教会が国教とされていますが、信心深く熱心な人は少ないです。一般的に信仰心は少ないものの、熱心な信者も尊重されており、後述の食事制限に対する理解もあります。
フィンランドは日本人のイメージする他のヨーロッパ諸国とは異なる文化、マナーがあります。日本と同じく「公衆裸入浴文化」があります。水着を着用してサウナに入るのは、男女共用でない限りマナー違反です。
家に入る時には玄関で靴を脱ぎます。ただ厳密に境界線があるわけでは無いので、土足で忘れ物を取りに少し奥に入ったりすることなどはあります。
パーソナルスペースの概念があり、他人の領域には物理的にも精神的にも不用意に立ち入らないのがマナーです。バスや電車でも満員でない限り他人の近くに座るのは好まれません。初対面の人にもハグではなく握手をしましょう。頬へのキスなどはもってのほかです。
気候
Q. 現地はどのような気候ですか? 健康維持のために気を付けるべきことはありますか?
夏は涼しく過ごしやすいです。首都ヘルシンキのある南部でも気温は15-25度、どれだけ高くても30度前後で、25度を超すと猛暑日と言われる所です。湿気が少ない為、気温の割には水分補給が重要です。北部は北極圏にあり、ラップランドと呼ばれています。気温は高くて25度で、暑いと感じることはまずないでしょう。
一方、冬は北海道並に寒いです。南部でさえ寒い時にはマイナス20度になりますが、近年は暖冬が続いており、マイナス10度を下回らない年が続いています。寒いのが大好きな筆者としては寂しい限りです。
北部の冬はアラスカ並みで、つい最近最低気温マイナス40度を記録したほどの極寒の地です。通常でもマイナス20度は上回りません。建物の断熱構造や暖房は発達しているので、暮らす上で大きな支障はありませんが、問題は暗さでしょう。日照時間が3時間以下、北極圏に至っては極夜で陽がそもそも登らない時もあるので、体内時計が狂いやすいです。朝起きたら照明を付けて部屋の中を一気に明るくすることをお勧めします。
とはいえ、やはり寒さには気をつけてください。現地の人は何食わぬ顔をして薄着で出歩いていることがありますが、周囲の服装に惑わされずにきちんと着込みましょう。まだフィンランドの寒さに慣れていない人は、カロリーの消費が激しくなります。そのため体がエネルギーを欲しますが、くれぐれも食べ過ぎには注意してください。
Q. 現地特有の風土病はありますか? 健康維持のために役立つ対処方法はありますか?
特にありません。ただし土壌の微生物分部が違うので、最初のうちは生野菜を控えましょう。フィンランドに限らず外国であればどこもそうですが。
言語
Q. 現地の人々はどのような言語を用いていますか? 外国人にとって、現地の言語を学ぶ際に、どんなハードルがありますか?
フィンランドの国語はフィンランド語と、南西部で主に話されているスウェーデン語です。北部の一部自治体ではサーミ語もほぼ同等の地位にあります。
スウェーデン語はゲルマン系の言葉で、ドイツ語を理解する人にとって習得は容易でしょう。ノルウェー語やデンマーク語が出来るならば尚更です。
曲者はフィンランド語です。ウラル語族フィン系の言語のため習得の下地になりえる類似する言語はエストニア語とハンガリー語しかありません。アクセントと発音はシンプルなので習得は難しくありませんが、文法は独特で複雑です。名詞には語尾による格変化が15種類もあり、単語によっては子音も一緒に変化することがあります。幸い英語の過去形動詞等の様な不規則さは全くと言っていいほどないので、きちんと理論を学ぶのが他の言語以上に重要だと言えます。
語彙に関しても独自性が強いです。上の写真から分かる通り推察すらできません。若者を中心に英語力は高いので、一時的な滞在であれば英語だけでも十分でしょう。
生活
Q. 現地の人々の生活水準はどうですか?
税率が高いため物価は日本よりも幾分か高いですが、そのかわり福祉が充実しているので、たとえ長期的に職を失っても一定の生活水準は保障されます。いい電化製品や最先端の電子機器も背を伸ばせば誰でも買い求められます。生活水準は日本と同レベルと言えるでしょう。
人件費が高い分、飲食店の料金設定は日本より高めです。
Q. 現地の人々の教育水準はどうですか?
「子供の受けられる教育が親の財力に依存してはならない」という基本方針の下、保育園をはじめ小学校から大学、職業学校(日本でいう専門学校)までの教育は全て無料です。高校までは給食はすべて無料で、中学校までは教材や教科書が無料です。小学校では筆記用具すらある程度配られます。
教育の重要性は強く訴えられており、学生に対する国の支援も非常に充実しているため、どんな貧困家庭でも大学へ進学する機会が与えられています。文化的教養も重視されているため、図書館の利用率も世界有数です。
義務教育は小学校6年、中学校3年の計9年です。小学校の頃から自主的に学ぶことの大切さが強調されており、中学校の頃から選択科目が登場し、自由に進路を決めていくことが出来ます。学力が一定水準以上でなければ義務教育でも進級や卒業資格を得られず、同学年で1,2年の年齢差があるのが普通です。
特に語学には力が入れられており、若者を中心に国民のほとんどが英語を理解します。生徒が希望すれば小学校からフランス語やドイツ語、スペイン語など様々な言語も学ぶことが出来ます。
Q. 現地の治安水準はどうですか? 外国人が特に気を付けるべきことはありますか?
日本ほどではありませんが、治安は良好です。もちろんスリやひったくりに気を付けるべきですが、自分の荷物は前に抱える、置きっぱなしにしない、目を離さないなど基本的な対策をしていれば、被害に遭う事はまずないと思います。
それでも夜間に出歩く際には酔っぱらいなどに注意しましょう。翌日が休日である金土の夜は特にそうしたほうがいいです。酒飲みが多い国なので、バー周辺は昼間でも避けた方が良いでしょう。
Q. 現地の住居や住環境の様子どうですか?
やはり大きな特徴はサウナでしょう。フィンランド全土で約300万ものサウナがあります。ちなみにフィンランドの人口は550万人、つまり大体二人に一つの計算になります。一軒家では各家庭に、集合住宅でも予約制の共同サウナがほぼ必ずあります。日本でいうお風呂の感覚に近いです。
それ以外は日本とそこまで大きな差はありません。部屋は広くもなく狭くもなく、水回りもしっかりしていますし、断熱も優秀で冬でも快適です。ドアはほとんどの所でオートロックです。鍵を忘れないようにしてください。
火力発電所の温水が直接地下パイプを通って周辺住居の暖房に使われますので、賃貸などでは暖房費はかかりません。更に水道代もいりませんし、温水器も必要ありません。正確には上記にかかる料金は定額家賃に含まれています。
プライベートを重んじると前述したように、どんなに安いアパートでも共同のトイレやシャワーは見られません。
Q. 現地の生活インフラ(水道・電気・ガス・インターネット)はどの程度整っていますか?
水道、電気、インターネット、このどれもが非常に安定し充実しています。都市ガスはそもそも一般的ではありません。基本的にボンベで購入します。
水道は後述しますが、塩素すらほとんど入っていません。蛇口からほんの少し処理しただけの天然水が出てきます。
電気は230V、停電は19年住んで一度しかありませんでした。
インターネットは月間定額使い放題のサービスしか見たことがありません。街中であればいたるところにフリーWi-Fiが設置されています。契約の方も日本と比べると格安です。基本通話に加えかなり快適なスピードのインターネット接続が月額30€以内で使い放題です。フィンライド外でもEU圏内であればデータ上限こそありますが、ネット接続可能なプランが多いです。
Q. 現地のレストランやファーストフード店、露店など食品を扱う店の衛生状態はどうですか?
日本と同じくどこでも食べられます。衛生水準は極めて高いです。
年に一度か二度、何の資格もない人たちも自由に自作の食料品を売ることのできる、所謂「自由市」のような日があります。もちろん食品衛生の管理も何もかも素人の国民に丸投げという日です。逆に言えばこのような日を開催できるほどに国民全体の食品衛生に関する意識が高く、教育水準も高いと言えるかもしれません。私自身はそのような場で何か問題が起きたと一度も聞いたことがありません。
Q. 生活に必要な安全な飲用水はどのように調達しますか?
フィンランドの水道水は世界トップクラスの安全性を誇っており、特別な表記が無い限りどこでも蛇口から直接キレイな水を飲むことが出来ます。それは首都の都心部も例外ではありません。水は日本と同じくミネラル分の少ない軟水で飲みやすいです。
注意すべき点としては、一部の地域の水道は古い為、暖かい水を流すと水道管の金属が少量溶けて出ることがあります。手洗いや食器洗いはそれで十分ですが、飲む場合は可能な限り冷たい水を出すのがいいと思います。
店でペットボトル水を買うメリットはほぼありません。売っていても5,10リットル単位のタンクがほとんどです。もし買うとすれば、注意しなければならないのは、炭酸水の存在です。握ってみて柔らかいペットボトルがあれば炭酸は入っていません。その場合でも大抵の場合香り付けされている商品が多いです。普通の水は蛇口から出るのだから。水は買うものではないと考えたほうが良いです。
Q. 現地の交通事情や交通機関の様子はどうですか?
公共交通機関が発達しているため、首都圏内では自動車よりも早く目的地に着くことがあります。バス、メトロ、トラム、フェリーのどれもヘルシンキ地域交通局(HSL)が管理しています。料金設定はかなり良心的です。
チケット一つ買うだけでこれら全てに乗ることが出来ます。観光客向けには一日乗り放題チケットの購入が出来ます。長期滞在するのであればHSLが発行するカードの入手をお勧めします。これはHSL専用のSuicaみたいな立ち位置にあり、あらかじめお金をチャージしておくことができます。毎回のチケット購入の手間を大幅に省いたり、定期券を購入(カードに記録される)したりすることが可能になります。
メトロやフェリーは基本的に時間通りに来ますが、バスやトラムは数分の遅れが目立ちます。冬場やレジャーシーズンは特に人手が足りなかったり、エンジントラブルが発生したりして来ないこともあります。ストライキなども起きたりしますが、その際にも前もって報道されたり、大使館から連絡があったりするので、突然「動いてない?!」となることはありません。
Q. 現地の医療水準はどうですか? 医療費は高額ですか?
福祉国家なので高水準の医療が安価で受けられます。救急時には保険や経済力の確認よりも先に治療に当たります。健康保険制度も優秀で、一年以上の滞在証明があれば、市民と同等の医療を受けられます。ただし、歯医者は健康保険適用外です。短期滞在や観光の場合の医療はかなり高額になるので、別途保険に入ることをお勧めします。
公立の医療センターは安価ですが、受診者数が多いので数時間待ちになることもあります。出来るだけ予約してから行くのがいいでしょう。短い待ち時間で受診できる私立のクリニックもありますが高額です。「病院」へは(緊急時以外)直接掛かることは出来ません。医療センターかクリニックでまず診断してもらい、専門的な治療が必要だと判断された時にのみ診断書が病院に送られ、治療を受けることができます。
執筆者:雪の国のヘラジカ
執筆年月:2021年1月