海外社会貢献者からのメッセージ
Q. 世界を活動の場とする社会貢献者にとって、この国はどのような場所ですか?
エクアドルのほぼど真ん中、リオバンバという街で、教育ボランティアをしています。エクアドルは、ここ5年ほどの間にだいぶ近代的になり、都市部では大型ショッピングセンターもあります。物価が安く、南米の中では治安も比較的良く、自然も豊かなので、多くの外国人が旅行で訪れます。
日本からは医療関係、農業関係のボランティアの方がよく来られています。この国には良い土壌や環境があるのに、新しいものを創り出したり、工夫したりするのが苦手なため、野菜や米、カカオやバナナ、コーヒー豆などの農業栽培技術、コーヒーやチョコレートの加工技術援助を外国から受けています。
現地の人たちは、日本人ボランティアの勤勉さや責任感の強さなどを高く評価し、感謝しているようです。私が日本人だと知って、他の日本人から助けてもらった経験を熱く語ってくれた人もいました。ここで住むには多少の不便さがあったとしても、感謝され、やり甲斐を感じて活動できる国だと思います。
文化
Q. 現地の人々の気質や考え方にはどんな傾向がありますか?
エクアドル人は、良くも悪くも物事を深く考えません。そのため大変な状況に見舞われ問題山積でも楽しく生きています。人懐っこくて、子供のような純粋さを持っています。サプライズで人を喜ばせるのが大好きです。知らない人にでも「アミーゴ!(友達)」と親しげに声をかけてきます。誰だったっけ?と真面目に考えてはいけません。
前もって計画したり予定を立てたりするのが苦手なので、一緒に出掛ける約束をしていても、待ち合わせ時間に現れることはまずありません。すっかり忘れて来ないこともあります。決して悪気がある訳ではありません。基本3日ほど前に約束したことは忘れられると思ってください。
ダンスはエクアドル流ストレス発散です。ストレスがあればの話ですが…。どんなに疲れていても踊りは別。踊らないで座っていると強引に誘われます。「踊らざる者、食うべからず」と言われ、ほぼ強制です。断るともの凄く悲しそうな顔をします。一応、誘われた時は嫌でも応じるのがマナーです。
Q. 現地の食文化はどのようなものですか?
多彩な気候に恵まれているので、地域によって様々な食文化が発展しています。海沿いの地域(コスタ)はバナナの栽培が盛んで、魚介類など海の幸も豊富です。中でもセビッチェ(冷たいエビや貝などのスープ)が有名です。また泥ガニともいわれるマングローブガニも丸々一匹$3位で食べられます。あまり身が無いので悲しいですが、スープはいいダシが出て絶品です。
高山地域(シエラ)では、じゃがいもやトウモロコシが主食で、牛、豚、羊、鶏、さらにはウサギや、クイ(テンジクネズミ)まで食されています。クイはお客様をもてなしたり、お祝い事をしたりする時に食べる高級食材です。独特の匂いとクセがあり、好き嫌いがはっきり別れます。
またアマゾン地域(オリエンテ)に行くと、チョンタクロ(カブトムシの幼虫みたいなもの)の串焼きが食べられます。口に入れるのに勇気がいりますが、クリーミィーですごく美味しいそうです。さらにバナナの葉で鶏肉や魚を包んで蒸した「マイト」という郷土料理も人気です。バナナの葉で蒸すと、葉から出る香りで中の具材が格段に美味しくなります。
Q. 現地の人々はどのような生活習慣や宗教観を持っていますか? 現地特有のマナーなどはありますか?
挨拶は、女性同士は頬にキスを、男性同士は握手が一般的です。急いでいてもその場にいる一人一人全員と挨拶します。スキンシップを大切にするエクアドル人にとって、流行病などでこの挨拶ができなくなると、ものすごく辛いそうです。
男性は女性に対してとても親切です。重たい荷物を運んでくれたり、バスの乗り降りの際にも手を貸してくれたりします。妊婦さんやお年寄りに席を譲るのは当たり前。貧しい人を見かけたらパンや果物、少しのお金をあげたりします。徳を積むと天国に行けると信じているせいでしょうか。
エクアドル人の約80%はカトリック教徒ですが、先住民の多くはプロテスタントです。キリスト教がしっかり根付いていて信心深い人が多いです。それ故にキリスト教に根付いたお祭りが多く、生活の重要な位置を占めています。クリスマス以外にも、春にはキリストの死と復活を祝うお祭り、またカルナバルと呼ばれる謝肉祭があります。その他にも、先住民の風習とスペインの風習が融合してできたお祭りもあります。日本のお盆にあたる「死者の日」には、先祖の墓参りをし、親戚一同で食事をします。
気候
Q. 現地はどのような気候ですか? 健康維持のために気を付けるべきことはありますか?
赤道直下に位置しているので四季の変化はほとんどありませんが、6~10月が冬(乾季)、11~5月が夏(雨季)です。海沿いのコスタ、山岳地帯のシエラ、アマゾン地域のオリエンテと、地域によって気候が大きく異なります。
コスタは、太平洋に面した赤道直下の熱帯地域で蒸し暑く、暑いと30℃を超える日もあります。シエラは山岳地帯で標高2000m~4000mに位置し、赤道直下にありながらも涼しく、穏やかな気候で「永遠の春」ともいわれています。オリエンテは熱帯雨林地帯で、高温多湿です。年間降水量が多く、毎日のように突然スコールのような大粒の雨が降ります。
暑い海岸地域や熱帯地帯では熱中症に注意して下さい。高山地帯から熱帯地域に移動する場合は、気候の急激な変化で体調を壊す人が多いです。目的地の気候を考えて、服装や常備薬など十分な備えをして下さい。標高の差も身体にとって大きな負担になります。無理なスケジュールを立てず体調に合わせて移動してください。
Q. 現地特有の風土病はありますか? 健康維持のために役立つ対処方法はありますか?
コスタやオリエンテのような高温多湿の地域では、デング熱、チクングンヤ、マラリアといった蚊を通して感染する病気の危険があります。長袖、長ズボン、虫よけ剤などの防蚊対策が欠かせません。
シエラでは高山病に注意が必要です。症状として、頭痛、食欲低下、吐き気、めまい、顔や手足の浮腫などがあります。標高の低い所からシエラに移動する時は時間をかけて徐々に旅をしてください。また、シエラに着いてもずっと体調がすぐれないようなら、無理せず低い所に移動する事をお勧めします。
エクアドル全域で言えるのは、アメーバ赤痢に感染したり、食中毒でお腹を激しく壊したりする危険が常にあります。抗菌グッズに囲まれ、清潔な環境で育った日本人はお腹が弱いので、エクアドル人と一緒に調子にのって食べてしまうと大変な事になります。特にレストランで外食する時はその都度、料理や店の衛生状態を目と鼻を全開にして確かめて下さい。怪しければ断る勇気が必要です。
言語
Q. 現地の人々はどのような言語を用いていますか? 外国人にとって、現地の言語を学ぶ際に、どんなハードルがありますか?
公用語はスペイン語です。スペイン語は基本的にローマ字読みなので、日本人にとっては比較的発音しやすく、聞き取りやすいです。特有の難しさといえば、全ての名詞が男性名詞・女性名詞に分かれることでしょうか。例えば、目(ojo)は男性名詞、口(boca)は女性名詞といった具合です。「どうして、何でもかんでも男と女に分類するの?」って現地の人に聞いたら「知らない」って言われました。そりゃそうですよね…。また主語や時制によって動詞の語尾が40以上に変化します。これはカオスです。でも、毎日10分でもいいので地道に勉強し、恥ずかしがらずに話すことによって、必ず進歩していけるので、諦めないことが大切です。
また、先住民により10以上の少数言語が話されています。インカ帝国の流れをくむインディオの人々はキチュア語を話します。また、アマゾンの奥地では、シュワール語も話されています。これらの言語を学ぶと、先住民たちと格段に仲良くなれるのですが、エクアドルで生活するには、まずはスペイン語です。
生活
Q. 現地の人々の生活水準はどうですか?
エクアドルは貧富の差が激しいです。最低賃金は月$400くらいなので、その日暮らしの人がたくさんいます。道ばたやバスの中で物乞いをしている人もよく見かけます。お金を手にするとすぐ使ってしまったり、欲しいものがあると何でもローンで買おうとしたりするので、常に借金を抱えている人が多いです。
中でも先住民インディオは貧しく、トイレ・台所・洗濯場が共用のアパートに住み、一つの部屋に家族や親戚10人くらいが床に毛布を敷いて寝ていたりします。それなのに部屋の中に薄型テレビがあったりもします。お金の使い方が間違っているのでは…と思ってしまうことが多々あります。
海外で出稼ぎをしてお金をためた人もそこそこいて、そういう人たちは立派な家を建て、最新の電子機器や新車を購入し、贅沢な暮らしをしています。
Q. 現地の人々の教育水準はどうですか?
学校は低学年の子供たちは午前だけ、高学年は午後だけなので、子どもたちはのびのびとおおらかに育っています。10年位前までは学校へ行かず家族のために働いていた子どもたちもいたため、特にインディオの女性は20代、30代と若くても字がまったく、あるいはほとんど読めないという人がたくさんいます。
それでも最近は政府が自国の教育水準の低さに危機感を感じ、平日に子どもたちが働くことを禁止ししたため、みんなきちんと学校へ通うようになりました。
高学年になるとコンピューターの使い方を教える授業まで導入され、子どもたちがネットカフェで宿題をしている姿もよく見られます。子どもを大学へ進学させる家庭も増えてきています。
Q. 現地の治安水準はどうですか? 外国人が特に気を付けるべきことはありますか?
強盗、ひったくりはよくある犯罪です。最近は銀行で高額の現金を引き出した人を狙った強盗事件も増えています。もし、まとまったお金を引き出す場合は、警察に電話(911)すれば無料で警護に来てくれます。私も一度警護をお願いしたことがありますが、パトカーに恰幅のいい警官が3人も乗ってお迎えに来てくれました。自分は大丈夫だと思わず、警護のサービスは遠慮なく使いましょう。
日常生活では、普段から高額なお金は持ち歩かない、やむを得ない事情以外でスマホやタブレットなどを公共の場所で取り出さないなど、細心の注意が必要です。もし強盗に襲われたときは、いっさい抵抗せず、要求されたものをおとなしく差し出せば殺されることはありません。夜は特に犯罪が増えます。
また、泥棒除けと称して、あちらこちらで犬が放し飼いにされており、群れで襲ってくることもあります。こちらの方は、パンくずをばら撒けば一瞬でお友だちになれます。念のためパンを一切れ持ち歩くのもよいでしょう。
Q. 現地の住居や住環境の様子どうですか?
山岳地帯(シエラ)では月$150くらい出せば2LDKのきれいなアパートが借りられます。海岸地域(コスタ)では$200以上必要と聞いています。ほとんどの家はコンクリートブロックかレンガでできています。レンガ造りの家は保温性がよく、過ごしやすいです。日本のようなバスタブのある家は皆無で、シャワーが標準です。
アパートを探す時は、現地の人に周辺の治安状況をよく確認しましょう。泥棒がよじ登れないくらい高い塀で建物が囲まれている家も多いです。塀の上に割れたガラスや釘が埋め込まれていれば、かなり防犯意識の高い家といえるでしょう。また、自分の部屋のドアだけでなく、アパートの住人の共同出入り口、屋上があるなら屋上の出入り口のドアにも鍵がついていると安心です。
Q. 現地の生活インフラ(水道・電気・ガス・インターネット)はどの程度整っていますか?
電気と水道は整備されていますが、地域によってはよく水が止まります。ほとんどの家は屋上や地下に貯水タンクを設置し、24時間水が途切れないようにしています。いつ、どれくらいの期間断水するか前もって教えてくれるわけではないので、シャワーやトイレの途中に水が止まってしまうと、オロオロします。家を探す際は貯水タンクの有無を確認することをお勧めします。
ガスはプロパンで、ボンベが空になると自分で交換します。ボンベは一つ$3くらいです。料理の頻度にもよりますが、一人暮らしだと2~3か月はもちます。ガスボンベを売っているトラックは日に何度も巡回していて、手を振ると家の前で止まってくれます。
最近はインターネットも普及し、自宅にネットを引く人も増えてきました。費用は月$30~$50です。ネットの速度は日本と変わりないように感じますが、隣人がWiFiにタダ乗りをし、回線に負担がかかっていたという話もよく聞きます。ネット速度が急に落ちたら注意が必要です。
Q. 現地のレストランやファーストフード店、露店など食品を扱う店の衛生状態はどうですか?
大型ショッピングセンターに入っているレストランやファーストフード店はマニュアルに沿って衛生管理されているので、安全な部類に入ります。
町中のレストランや露店は店主が衛生基準なので注意が必要です。お金を触った手で食べ物を盛り付ける、トイレのあと手を洗わない、厨房が失神するくらい汚いというのはよくある話で、食中毒は日常茶飯事です。現地の人に、どのお店が安全か前もって教えてもらってから食べに行きましょう。どうしても冒険したい人は、火の良く通ったものを注文するか、食中毒で脱水症状になった時のために“命の水”(経口補水液)の作り方をネットで調べておくことをお勧めします。
スーパーや近隣の商店で食材を買うときは、消費期限切れでないことを確認しましょう。時々、製造年月日が未来だったりすることもあるので、おなかがデリケートな人は気を付けてください。
Q. 生活に必要な安全な飲用水はどのように調達しますか?
水道水は15分以上煮沸すれば飲むことができます。歯磨きや洗顔程度であれば、直接水道水を使っても問題はありません。
お友だちの家に招待されて「飲み物は何がいいですか?」と聞かれた場合、思わず「じゃあ水をください」と言ってしまうことがありますが、水道水をダイレクトにコップに入れて提供されることがあります。自分が頼んだ手前、断りづらいということもあるので、心配な方はペットボトルの水を持ち歩くか、コーラや炭酸水など、水道の蛇口から出てこないものをお願いしましょう。
ミネラルウォーターは、スーパーや近隣の個人商店など、どこででも買うことができます。20リットル入りのボトルを自宅まで配達してくれる業者もあります。
浄水器を付けている家庭もありますが、半年に一度カートリッジを取り換える必要があります。
Q. 現地の交通事情や交通機関の様子はどうですか?
交通マナーは悪く、運転手は事故を起こしても自分の非を認めないことが多いです。一度、車の事故で追突された人が、追突した人に怒られているのを見たことがあります。車は右側通行で、オートマチック車はほぼ存在しないので、運転に自信のない方はバスを利用されるとよいでしょう。
バスはだいたいの町で、一律30セントと安く、かなりの頻度で町中を巡回しているので、大変便利です。長距離バス網も発達しており、料金の目安は一時間くらい乗っても$1くらいです。
タクシーは必ず政府公認の黄色い車に乗ってください。乗った際は必ず料金メーターと防犯カメラ、そして緊急事態が発生した時に押すだけで警察の防犯センターにつながるボタンが付いているかを確認してください。外国人だとみると、料金メーターを作動させずに発車し、降り際に法外な値段を請求する悪質な運転手もいるので、必ず「料金メーターをつけてもらえますか」と丁寧にお願いしましょう。
Q. 現地の医療水準はどうですか? 医療費は高額ですか?
公立の病院は外国人であっても無料で受診できます。ただ、予約が必要なので、緊急時の場合は私立のクリニックを利用する人が多いです。その場合、医療費はクリニックにもよりますが高額になります。
またエクアドルでは銀行やコーペラティバと呼ばれる金融機関で、医療保険が販売されており、月$2~3で加入できます。金融機関と契約関係にあるクリニックに行けば無料で治療を受けることができます。
医療技術は決して高いとは言えません。私の友だちは、手術の際にお腹の中に忘れ物をされ、もう一度開腹して取り出してもらったそうです。別の友だちは歯医者で親知らずの抜歯に失敗し、口の中に大穴を開けられ、手術する羽目になりました。そんな話はよく耳にします。
お金持ちのお医者さんが経営するクリニックには、最新の医療機器があったりもしますが、そのようなクリニックはごくわずかです。病院に行く際は地元の人に評判を尋ねてみるか、外務省のホームページにリストアップされているクリニックを受診するのが無難でしょう。
執筆者:Sumaj
執筆年月:2020年8月