海外社会貢献者からのメッセージ
Q. 世界を活動の場とする社会貢献者にとって、この国はどのような場所ですか?
2019年はインバウンド旅客数が3940万人で過去最多になるなど、マカオは世界有数の国際観光都市です。特にカジノを中心とした観光産業が盛んです。
マカオでのボランティアはあらゆる国籍の人がいます。アジアでは韓国・香港・日本・フィリピンなどアジアをはじめ、フランス・ブラジル・ポルトガルなど世界各地からのボランティアがいます。また、公用語の広東語だけではなく、北京語・英語・ポルトガル語・さらにはベトナム語の分野で海外からのボランティアが幅広く活動しています。
マカオは基本的に観光ビザで3か月ノービザで滞在できます。面積が世田谷区の半分ほどしかなく、その特色ゆえにほとんどを第三次産業が占めます。したがって、ボランティアの活動領域も通訳や案内など観光業に付随するものになってきます。また、中国広東省珠海市に接していることから、中国大陸の玄関口としての役割も大きいです。
ポルトガルから中国に1999年に返還後一国二制度を敷いていることから、経済的また宗教的にも大陸よりかなり多くの自由が認められています。また、隣の香港と違い抗議行動等もほとんど見られず、政情は比較的安定しています。また、文化的にも和洋折衷ならぬ、中洋折衷でユニークな場所であり、視野をさらに広げたいと考えている人にとっては理想的な場所といえます。
ビザに関してですが、場合によっては三か月の間マカオから出なければ、その間ずっと滞在できます。台湾のように3か月後出境してすぐ入境すればリセットになるかと言うと、そうではありません。イミグレーションの匙加減により滞在許可期間がさらに短縮されることがあります。また、中国側に住みながら徒歩で行き来した場合、出入りするたびにリセットされるのでその問題が解決できそうですが、問題は3か月満了した後、45日ルールというのがあって、45日または45回マカオにいた場合は3か月マカオにずっと滞在したとみなされます。その場合1か月マカオに入れなくなるため、その間どこに滞在するかを考えておかなければなりません。ちなみに、私はその問題を回避するために、中国側に住んで、週に3または4日マカオに入るようにしていました。ワーキングビザの要求も非常に高くボランティアにとってビザは少し頭の痛い問題です。
文化
Q. 現地の人々の気質や考え方にはどんな傾向がありますか?
1999年にポルトガルから中国に返還されるまでは、ポルトガルの統治下にありました。返還後は、中国の特別行政区という位置づけで一国二制度が敷かれています。それで、現在もポルトガル風の建築や文化などが残っている一方、中華風の文化も色濃く、欧米と中華の文化が共存しているところとも言えます。
マカオ政府はマカオ居民への様々な優遇措置をとっています。例えば、マカオ居民対象の最低賃金の設定、一人当たり一年に一度の14万円の現金給付などです。コロナ禍においては、その現金給付に加えて、10数万円に及ぶ商品券が配られました。
学生も仕事がなければカジノで働けばよいと考えている人も多く、熾烈な受験競争や就職競争がないため、よく言えば楽観的、別の言葉でいえば比較的のんびりしています。ここがお隣の香港との大きな違いです。
また、マカオ人とはいうものの、大陸にルーツを持つ人が多く、マカオ独自のアイデンティティを持っている人が割と少なく、したがって、政治に関してはそれほど強い意見を持っている人は比較的少ないです。
Q. 現地の食文化はどのようなものですか?
ポルトガル料理と中華の両方がメインです。マカオに住んでいる人のほとんどが広東省出身であることから、広東料理が多いです。例えば、ワンタン麺やチャーシュー飯、シューマイなどです。
外食の文化が根付いています。外食の場所としては、茶樓と呼ばれるヤムチャを楽しむための高級レストランのようなところから、茶餐廳と呼ばれる大衆食堂のようなものまでいろいろあります。
特筆すべき点としては、下午茶つまりアフタヌーンティの習慣があることです。ケーキと紅茶の優雅なアフタヌーンティ―を想像されるかもしれませんが、実際は食堂でプーアル茶を飲みながら中華点心をいただくことです。
また、特有の習慣としては、食事の前に茶わんやお箸などの食器を、お茶で一通り洗うことがあります。一通り洗った後は、テーブルに置かれた容器にお茶を捨ててから、食事を始めます。消毒の意味があるのかと思いきや、特にその意味はなく習慣にすぎないそうです。
Q. 現地の人々はどのような生活習慣や宗教観を持っていますか? 現地特有のマナーなどはありますか?
マカオの特色として挙げられるのは、カジノがたくさんあることです。カジノ以外に特色となる産業がないといっても過言ではありません。マカオ居民のかなりの数がカジノディーラーやその周辺産業に従事しています。経済が潤っているので、わりと裕福な人が多いです。そのため、物質的なものに頼るという傾向は他の地域よりもさらに強いかもしれません。
財神というお金の神様を祭っているところもよく見られます。その一方で、カトリックも多く、天主堂やカトリック系の学校も多いです。また、店の前には土地の神が祭ってあったり、夏になると供え物をして死者を弔ったり、形だけかもしれませんが、信心深い人もいます。
気候
Q. 現地はどのような気候ですか? 健康維持のために気を付けるべきことはありますか?
気候はほぼ一年を通して高温多湿です。特に1-3月は湿度が高く、雑巾がけをしたフロアが数時間たっても乾かないときもあり、ひどいときはフロアが結露して水がたまることもあります。
また、4月からは最高気温が25度を超えるようになり、5月から10月までは30度を超える日がほとんどです。もちろん熱中症にも注意が必要です。外気温が高いため、冷房が強めに設定されているところも多いですので、薄手の長袖を用意しておかないと、風邪をひいてしまう恐れもあります。また、5月から夏にかけて急にスコールが降ることもあるので、傘が必携です。
Q. 現地特有の風土病はありますか? 健康維持のために役立つ対処方法はありますか?
現地特有の風土病などはありません。そもそも森と呼べる場所が存在しないので、デング熱等の伝染病の心配はほとんどありません。また、保健所による管理が行き届いているので、野良猫や野良犬を見ることもないので、狂犬病などの心配もありません。
しいて言えば、街でネズミを見かけることが多いので、清潔さを保つことは特に重要です。コロナウイルスの際もいち早く入国制限等の措置を取りました。マカオは人口70万人しかおらず、マカオ衛生局の管理が行き届いているので、現地特有の病気の心配はそこまで必要ないかと思います。
言語
Q. 現地の人々はどのような言語を用いていますか? 外国人にとって、現地の言語を学ぶ際に、どんなハードルがありますか?
公用語はポルトガル語と広東語で、公文書には両方の表記があり、バスなどの公共交通機関のアナウンスもポルトガル語と広東語の両方が用いられます。英語の表記やアナウンスがないことも多く、英語または北京語しか理解できない人は戸惑うことも多いです。
しかし、マカオは大陸からの観光客が多いなどの理由から、マカオ居民の多くは北京語も話せるため、北京語が分かれば生活に困ることはそうそうありません。また、広東語と北京語の文字表記はほとんど同じなので、漢字が分かれば問題なく過ごせると思います。お隣の香港と違い、北京語を話す人に対する抵抗感もマカオはほとんどありません。広東語は北京語と文字は同じでも発音が全く違い、また声調が9つもあり、習得が非常に難しいと言われています。また、広東語を専門に学べる語学学校もマカオにはありません。独学か現地の方とのプライベートレッスンで学ぶかのどちらかになります。
生活
Q. 現地の人々の生活水準はどうですか?
物価は香港ほどまではありませんが、非常に高い水準です。2LDKの部屋を借りようと思った場合、古くかつ狭い部屋で10万円からです。ワンルームを58,000円くらいで借りることもできますが、本当に狭いです。
また、生活用品や食料品は日本と同じか少し安いくらいです。スーパーの品ぞろえがなかなか充実していて、日本のものもたくさん手に入ります。ちなみに、コロナウイルスの流行前までは、お隣の中国広東省珠海市に家を借りて、ボランティアなどの活動に参加する時だけ国境を歩いて超えてマカオ入りしていた人もかなりいました。
中国側に住んだ場合、2LDKのマカオと同じ水準の部屋は5万円かそれ以下で借りることができます。また、生活用品や食料品の価格はマカオの2分の1から3分の1です。それで、マカオに住んでいながら、よく中国側に行って買い物をする人も大勢いました。ちなみに、コロナウイルスの影響で、日本人に許されていた15日間の中国滞在ビザの免除が一時的にキャンセルされているため、現在その方法は残念ながらできなくなっています。将来的に解除されれば、またその方法を考えるのもありかもしれません。
Q. 現地の人々の教育水準はどうですか?
識字率は96%で、会うほとんどの人が字を読むことができます。しかし、年長の方になると、字を読めないという人もおり、書籍には抵抗を覚える人もいます。また、大学進学率は高く、90%以上となっています。
マカオは狭く進路の選択肢が少ないという特性上、留学を選択する学生も多く、その多くが、ポルトガルや台湾などに留学しています。公用語はポルトガル語と広東語ですが、小学校から北京語の授業がカリキュラムに組み込まれており、若い世代は基本的に、広東語と北京語の両方を話すことが出来ます。
Q. 現地の治安水準はどうですか? 外国人が特に気を付けるべきことはありますか?
マカオ返還前の1990年代までは、マフィアが暗躍していたようですが、返還後は治安が劇的に改善しました。現在では、人口当たりの警察官の数が世界でもトップクラスということで、治安はよく守られていると思います。夜一人で出歩いても、人通りが少ない場所に行きさえしなければ安全です。
また、交通担当とイミグレーション担当の警察、カジノ担当の警察と別れていて、頻繁にパトロールがなされています。不法滞在者を取り締まるために路線バスごと止められて検問されることもあるので、パスポートと入国の際にもらう入境許可の紙は常に携帯しておかなければなりません。スリも頻繁にではありませんが、起きているので、手荷物には十分に気を配っていなければなりません。
時々あることですが、街を歩いているときに、カジノでお金を失ったのでお金を貸してくれないかと(特に女性から)持ち掛けられることがあります。その場合は、何らかの目的がある場合が多いですので、そのままスルーしたほうが無難です。
Q. 現地の住居や住環境の様子どうですか?
前述のように、2LDKなら古くて狭い部屋でも10万円以上は必要です。いわゆるワンルームマンションでも6万円近くはしますし、4畳半くらいの広さしかありません。
お隣の中国広東省珠海市に家を借りて、ボランティアなどの活動に参加する時だけ国境を歩いて超えてマカオ入りしていた人もかなりいました。中国側に住んだ場合、2LDKのマカオと同じ水準の部屋は5万円かそれ以下で借りることができます。ただ、中国側に家を借りて二つの地域を行き来することにした場合、ビザの問題があります。
いずれにしても、住環境については、高くても便利なマカオを取るか、快適で広くても不便な中国珠海市を取るかの二択です。
Q. 現地の生活インフラ(水道・電気・ガス・インターネット)はどの程度整っていますか?
電気、ガス、水道等のインフラはすべて整っています。家庭の固定インターネットは月2,000円くらいからです。また、SIMカードも安く購入できます。一月インターネット無制限(速度制限あり)で、1,300円くらいからです。
また、電気代は各世帯政府が月2,800円までは補助してくれるので、電気代はその額を超える金額になります。ガスはマンションに備え付けの天然ガスがある場合と、ガスを配達してもらう場合があります。ガスを配達してもらう場合は要注意です。湯沸かし器もガスを使うので、シャワーの途中でお湯が水に変わることがあります。
Q. 現地のレストランやファーストフード店、露店など食品を扱う店の衛生状態はどうですか?
他の地域に比べれば、衛生状態は比較的良いとは思います。
しかし、高温多湿の時期になると、食中毒などに気を付けなければなりません。私は以前一人3,000円ほどのビュッフェに行って、危うくカビの生えた寒天を食べさせられそうになりました。ランクの比較的高い店でもそれですから、一般のレストランでどれほど衛生管理がなされているかはかなり疑問です。また、レストランで出される水やお茶は、カルキ臭いので、飲みなれていない限り飲まないのが無難です。
Q. 生活に必要な安全な飲用水はどのように調達しますか?
マカオの水道管は多くが老朽化しており、水道水はそのままでは飲めません。実際、食堂で出されるお水やお茶はとてもカルキ臭く、飲めたのもではありません。現地の人は水道水をブリタでろ過するかして飲んでいますが、外国人の場合それはあまりお勧めできません。
短期滞在なら飲料水を常に携帯することをお勧めします。また、20リットル入りの水を500円から600円ほどで買い、家まで配達してもらうこともできます。長期滞在の場合は、浄水器を取り付けることをお勧めします。(日本と水の性質が違うため、日本の浄水器ではなく、マカオか香港で購入した浄水器が望ましいそうです)
Q. 現地の交通事情や交通機関の様子はどうですか?
移動はほとんどがバスか徒歩での移動になります。道が狭く、交通量が多いので自転車での移動は不可能に近いです。また、バイクも乗れますが、交通量が多く非常に危険です。また、駐輪場を見つけるのも至難の業です。さらに、地下鉄がないために、慢性的な交通渋滞が発生し、4キロの距離をバスで移動するのに30分ほどかかることもよくあります。
カジノが立ち並ぶタイパ地区に、全長10キロほどのモノレールが開通しましたが、住宅地からは遠く、日常生活にはほどんど役に立ちません。市街を走る地下鉄の計画はあるそうですが、実現するかもわかりません。ちなみに、バスの乗車料金はどこまで乗っても6マカオパタカ(日本円約90円)ですが、 マカオパスのICカードがあれば、半額の3パタカ(日本円45円)で、運賃そのものは安いです。
Q. 現地の医療水準はどうですか? 医療費は高額ですか?
医療水準は高いと言えます。ただ、保険がなければ高くつくこともありますので、事前にチェックして置くとよいと思います。マカオに住んでいる人の中にはボーダーを超えてお隣の中国広東省珠海市に行って歯科治療をはじめとした治療を受ける人もいます。中国側も医療水準はそれなりに高く、何といっても全額自己負担であることを考えても、治療費が安いからです。おそらく、中国側ではマカオの半額くらいに抑えられるでしょう。
執筆者:S.K
執筆年月:2020年6月