海外社会貢献者からのメッセージ
Q. 世界を活動の場とする社会貢献者にとって、この国はどのような場所ですか?
アイスランドは人口約36万人と非常に小さな国ですが、シェンゲン協定加盟以降、アイスランドで就労するEU市民が増加しています。2021年1月現在で、ポーランド、リトアニアなどの東欧を含むシェンゲン協定内だけでなく、フィリピン、タイ、ベトナムなどの東南アジアや、アフリカなどアイスランド国外にルーツを持つ人が5万人以上住んでいます。特に、ここ数年は中東やアフリカからの移民、難民が増加しており、ボランティアが必要とされています。
それに加えて、最近は、毎年200万人近い観光客が訪れることから、世界中の人と知り合うことができる機会も多く開かれています。小さな国ですが、国際色豊かな面を持ち合わせています。ポーランド、リトアニア、フィリピン、タイ、ベトナムなど1,000人以上の言語話者がいる言語のコミュニティも形成されています。
現地公用語はアイスランド語となっていますが、他の北欧諸国同様、ほとんどの人が英語を流暢に話します。ほとんどの人は誰がどの言語を話そうと、あまり気にしませんが、外国人同士では英語が共通語として話される場合が多く、また、外国人にそれぞれの言語で話しかけると想像以上に友好関係を築きやすくなります。
アイスランド大学で日本語講座が開かれていることもあり、日本への関心度は高い方だと言えます。アイスランドで住むためにはKennitalaと言われるID番号を取得する必要があります。就労ビザの取得は以前に比べると難しくなっているようです。
文化
Q. 現地の人々の気質や考え方にはどんな傾向がありますか?
歴史を通じ、大きな火山噴火をはじめとする自然災害や長く暗い冬を経験してきたこともあり、困難に直面した際には助け合う精神がよく見られ、忍耐に富んでいると言えます。それとともに、自分の意見をしっかりと持っていて、それを貫こうとすることもあります。いわゆる自己流を好む傾向があるとも言えます。
アイスランドの天候は急変することが多く、また人も少なかったので、綿密な予定を組むことが難しかったようです。ですから、組織、計画性という点では、日本と全く正反対のように感じることがあります。それでも、最後はなんとかやり遂げるというのが「アイスランド流」とも言えます。
アイスランド人は、自分たちの文化に誇りを持っていますが、便利であれば良いものをどんどん取り入れていく進取の気性に富んでいます。他文化と融合し、少ない人口の割には多文化を楽しむことができる人々です。見知らぬ人がすぐに知り合いになれる場合も多く、それぞれの文化に対する敬意もあります。
普段は長時間働くアイスランド人ですが、天気が良い日には、平日でも街中でカフェや食事を楽しみ、また郊外に散策に出かけ、生活を楽しんでいます。こういった面が幸福度の高い国となっている背景かと思います。
生活費が高いことや、女性の社会進出が進んでいることもあり、ほとんどの家庭が共働きとなっています。
アイスランド人が見知らぬ人に会話を始めるのは少ないかもしれませんが、こちらからアイスランド語で話しかけると会話に応じてくれます。特にアイスランド各地にある温水プールは地元の人にとって社交場となっていて、少し挨拶をするだけで気さくに会話を始めることができます。
外国からアイスランドに移住するとなると、島国で人口も少なかったことから、場所によっては受け入れられるまでに少し時間がかかる場合があります。
Q. 現地の食文化はどのようなものですか?
アイスランド人にとっての主食はジャガイモです。最近でこそ米を食べる人も増えてきている様ですが、ジャガイモには及びません。家庭での料理は至って簡単なものとなっています。
アイスランドの特産品はニシン、サケ、タラなどの水産資源になります。特にハルズフィスクルと呼ばれる干し魚は保存食としても利用されています。ニシンの酢漬けやサケ、タラを用いた料理が中心です。
肉はアイスランドラム(子羊)を使った、ローストラム、ラムチョップなどがあります。アイスランドの自然のなかで育ったラムは絶品です。
アイスランドの国民食とも言えるのがピルサ(ホットドック)です。ガソリンスタンドなどでも提供されているので軽食がわりにする人もいます。
また、一年を通じて濃厚な味のアイスクリームも楽しむことができます。乳製品では牛乳から取り出したクリームを発酵させた、スキィルがあります。ヨーグルトより濃厚でまったりとした味わいとなっています。
外食はイタリアン、フレンチ、ステーキ、中華レストランがあります。最近は回転寿司も見る様になりました。外食した場合、ハンバーガー1,000kr(800円くらい)、スープ1,500kr(1,200円くらい)、メインディッシュで2,500kr(2,000円)くらいからとなっています。
Q. 現地の人々はどのような生活習慣や宗教観を持っていますか? 現地特有のマナーなどはありますか?
宗教信条に関しては寛容です。
アイスランド憲法でルーテル教会が国教として定められています。人口の約8割がルーテル教会に所属していますが、憲法により信教の自由が認められているので、多種多様な宗教が認可されていて、それぞれの信仰を持つことができます。クリスチャンとしての信仰心が決して強いわけではありませんが、クリスマス、イースターの時期には教会に出向くという感じです。普段は働き詰めている人も、この時だけは仕事も休み、家族で時間を過ごすために時間をとっています。
溶岩や石にエルフと呼ばれる妖精がいると信じている人もいます。
気候
Q. 現地はどのような気候ですか? 健康維持のために気を付けるべきことはありますか?
アイスランドという名前と、北緯64〜66°という高緯度に位置していることゆえに、大変寒い国だという印象があると思います。
ケッペン気候区分では南アイスランドが西岸海洋性気候、北アイスランドがツンドラ気候になります。ですから、メキシコ湾流による影響を受けるアイスランド南部は、高緯度に位置しているにもかかわらず、実際は温暖で、冬でもそれほど大雪にはなりません。
とはいえ、一年を通じて気温はそれほど上がらず、夏でも冷え込む場合があります。また、1日で全ての天候を体験できると言われるほど天候が変わりやすく、風が強く吹くこともあります。外出の際は天候が良くても、ウィンドブレーカーやジャケット、帽子、手袋が必要です。
アイスランドの季節は基本的に、春5月、夏6〜8月、秋9月、冬10〜4月となります。オーロラシーズンは8月下旬〜4月下旬となります。6月はほぼ白夜に近い状態となります。
レイキャヴィークの1〜2月は時折冷え込むことがありますが、平均気温は氷点下にまでは下がりません。もっとも、一年を通じ北大西洋からの風は冷たく、天候が荒れることもしばしばです。雨が降っても風が強く、傘をさして歩くことは難しいです。(傘の骨が折れることもあります)
生活していると、気温自体は低くなくとも、常に風が吹いているので、実際の気温よりも肌寒く感じることがあります。もちろん、山間部では平地よりも冷え込みます。夏の最高気温も25〜26℃ぐらいで、それより上がることはほとんどありません。涼しい夏を楽しめます。
Q. 現地特有の風土病はありますか? 健康維持のために役立つ対処方法はありますか?
注意すべき、風土病は確認されていません。
冬季の日照不足からビダミンD欠乏症になる場合があります。アイスランド人は昔から魚の油、肝油を飲んで予防してきました。
また、日照時間が極端に短くなる冬は、気持ちが塞ぎ込みがちになることに注意する必要があります。対処法としては、日常生活のリズムを保つこと、定期的に運動をすること、室内の灯りをつけて気分転換を図ることなどがあげられます。
言語
Q. 現地の人々はどのような言語を用いていますか? 外国人にとって、現地の言語を学ぶ際に、どんなハードルがありますか?
ヴァイキングが話していた当時の言語が今でもそのまま残っており、それが今のアイスランド語で、公用語となっています。ですから、今でも1,000年以上前の古文書を問題なく読んで理解することができます。ゲルマン語系に属していますが、他の言語の影響をほとんど受けていない言語となっています。
アイスランド語の発音自体は難しくないので、アルファベットを一度覚えてしまえば、内容が分からなくても読むことができます。
文法は基本的に主語+動詞+修飾語となっていますが、動詞を2番目に持ってくる必要があります。語形変化が多く、名詞、動詞、形容詞のそれぞれを、人称変化(単/複数)させていく必要があります。動詞の場合はそこに時制変化を伴う必要があります。辞書に載せられている単語は基本形となっているので、辞書を引くときには語形変化する前の単語を知っておく必要があります。
外国人向けのアイスランド語講座を受講することもできます。
生活
Q. 現地の人々の生活水準はどうですか?
生活水準は非常に高く、生活費も高くなります。付加価値税は一般が24.5%、食品が11%となっています。税率が高くなっていますが、福利厚生に反映されていて、他の北欧諸国と同じ生活水準となっています。
各地に温水プールが整備されているので、健康維持と社交をかねて定期的にプールに行く人が大勢います。
文化活動にも力が入れられていて、子供が音楽や芸術を学ぶ時には、一定金額の補助が給付されています。レイキャヴィークでは交響楽団やオペラの公演も定期的に行われています。
就労者に対しても、労働組合が技能、言語などの習得のための費用を一部補助してくれる場合があります。
Q. 現地の人々の教育水準はどうですか?
識字率はほぼ100%となっています。公用語であるアイスランド語はもちろんのこと、デンマーク語、英語教育に力が入れられていますので、ほとんどの人がアイスランド語と他の数カ国語を話すことができます。
義務教育は6歳から始まる10年なっていますが、その後、4年の高等学校もしくは高等専門学校に行くパターンとなっています。
生徒によっては、義務教育終了後、すぐに進学せずに働いてから進学する場合もあり、自分に合った教育を選択しているようです。
大学教育に関しては、アイスランドの大学だけでなく、世界中の大学が視野にあり、自分の目標にそった大学に進学しています。
Q. 現地の治安水準はどうですか? 外国人が特に気を付けるべきことはありますか?
治安の面では比較的安全な国です。英語も通じ、一人旅でもそれほど不安を感じることはありません。それでも所持品、特に貴重品(パスポート、身分証明書、現金、カード、携帯電話、タブレット、パソコン、カメラなど)の置き引き等に合わないよう注意する必要があります。
夕方からバーや飲食店など町の中心部へ出かけると、それなりの危険があることを認識しておく必要があります。新しい友人を作ることはいいことかもしれませんが、見知らぬ人と飲み歩くことはお勧めできません。
外国人を狙った犯罪が特に目立っているわけではありません。しかし、ここ数年間で窃盗、暴行、強姦といった事件も増えつつあります。麻薬(不法薬物の所持、使用はアイスランドでも違法です)の使用も問題化しつつあり所持、使用の場合は厳重に処罰されます。政治不信によるデモ、抗議活動も時折見られますが、興味本位で近づくことによる被害も考えられます。
アイスランドには多くの火山が存在しています。気象局による観測が行われていますが、いつどこで噴火するかを確実に予測することは難しいものです。危険な兆候がみられる場合には、当局から出される指示にすぐに従うことが大切です。
Q. 現地の住居や住環境の様子どうですか?
アイスランドの建物は、冬を快適に過ごせるよう、熱を逃さない設計となっています。温水を利用したセントラルヒーティングと二重窓が使用されているので、室内は1年を通じて23度前後に設定されていて窓際にいてもそれほど寒く感じることはありません。家の中にいればいつでも快適です。
建物は一戸建て、集合住宅に分けられます。集合住宅の場合、各住所に管理組合が組織されています。毎月、定額を積み立てる形で維持管理されています。
低所得者は地方自治体から家賃の補助を受けることもできます。
Q. 現地の生活インフラ(水道・電気・ガス・インターネット)はどの程度整っていますか?
各家庭に、水道、温水、電気が敷設されています。停電、断水になることは、ほとんどありませんが、まれに強風などで送電線が切断され、停電になることがあります。
飲料水はほぼ無料で供給されているので、使用量に応じて請求されることはまずありませんが、温水は使用量に応じて請求されます。
ほとんどの建物が温水暖房となっていて、室内は一年を通じて23度前後に調整されているので、追加で暖房機器が必要になることはほとんどありません。
電気は220V、50HZ、プラグはC–2です。(ヨーロピアンタイプ)が基本となっています。調理器具は電気、または電磁調理器が主に利用されています。ガスはバーバキュー用のグリルなどで利用されますが、ガソリンスタンドでボンベを購入する必要があります。
アイスランド国内の電話番号は7桁(123-4567)で、市外局番は使用されていません。携帯電話会社でアイスランドのSIMカードの購入が可能です。アイスランドの電話番号を所持していれば、基本的にアイスランド国内通話は無料となっています。(電話会社との契約内容によります)
アイスランド国内では銀行をはじめとした、ほとんどの公共サービスがオンラインで利用できる様になっているので、インターネット環境が整えられています。光ファイバーケーブルの敷設が進んでいて、高速で安定したインターネットを利用できます。また、携帯電話も4Gをほとんどの場所で利用することができます。ただし、フィヨルドなど電波の届きにくい場所もあります。多くの公共の場所で無料WiFiが提供されています。場所によってはパスワードが必要な場合があります。公共WiFiのセキュリティが心配な場合は現地のデータローミング、ルーターを契約することもできます。
Q. 現地のレストランやファーストフード店、露店など食品を扱う店の衛生状態はどうですか?
基本的に日本と同じか、それ以上の衛生状態です。
Q. 生活に必要な安全な飲用水はどのように調達しますか?
世界でも有数のおいしい水の産地です。日本と同じ軟水です。水道水をそのまま飲用しても問題ありません。スーパーなどでミネラルウォーターが販売されていますが、現地の人はほとんど購入しません。
Q. 現地の交通事情や交通機関の様子はどうですか?
四方を大西洋に囲まれたアイスランドの主要な交通手段は車です。国民二人に1台と言われるほど自動車が普及しています。
アイスランド国内は島を周回する国道1号線とそこから枝分かれした道が整備されています。
アイスランド国内各地はバス路線、航空路、航路などによって結ばれています。現在アイスランドでは鉄道は整備されていません。
レイキャヴィーク首都圏では市バスが市民の足として利用されています。料金は大人490kr(400円くらい。2021年1月現在)で、一回の支払で75分間有効、有効時間内であれば、他のバスへの乗換ができます。支払いは現金かアプリの利用が便利です。
Q. 現地の医療水準はどうですか? 医療費は高額ですか?
アイスランドの医療水準は日本とほぼ同じです。国内どこでも同じ水準の治療を受けることができます。ただし、郊外に行くと病院が近くにない場合もあります。
アイラランド在住の場合、居住地近くの病院でホームドクターの登録することができます。免許更新などの検診はホームドクターで指定をもらいます。アイスランドで半年以上就労すると、医療システムに組み込まれるので、診療代、検査費用がかかりますが、国の健康保険から医療費を大部分負担してもらえるので費用はそれほどかかりません。
救急車は有料となっています。
アイスランド長期滞在ビザを申請する場合、最低30,000ユーロの医療保険に入っていることを証明する必要があります。
歯科は保険の適用外となっていて、非常に高額です。そのため、歯の治療にポーランド、ハンガリーに行く人も大勢います。
病院では英語が通じるので心配する必要はありません。
緊急時の電話番号は112です。
執筆者:K.F
執筆年月:2021年1月