海外社会貢献者からのメッセージ
Q. 世界を活動の場とする社会貢献者にとって、この国はどのような場所ですか?
チリは近年の経済成長が著しく、2018年1月には経済協力開発機構(OECD)から発表された開発援助委員会(DAC)援助受取国・地域リストから外れ、高所得国として分類されるようになりました。独立行政法人国際協力機構(JICA)ボランティアも派遣されていますが、徐々に縮小しているのが現状です。
ただし、2019年10月に、首都サンティアゴの地下鉄の運賃の値上げをきっかけに、全国的にデモ活動が発生、その後暴動、破壊、奪略行為が起きました。かなりの公共の物が破壊されました。2020年3月からは、コロナウィルスにより経済が悪化し、仕事を失った人が多くいます。これから精神面、感情面、道徳面、技術面での支援が必要になってくるかと思われます。
また、自然災害がよく起こる国でもあります。地震、津波、火山の噴火、洪水、火事がよく起こりますから、その度にボランティアが必要とされます。
チリは、ブラジルやペルー、パラグアイと違って、日本からの移民を受け入れなかった国なので、日系の人はあまりいません。日本文化があまり見られない国ですが、親日国で、日本文化への憧れと尊敬を感じている人がたくさんいます。日本語や日本食、日本文化(墨絵や生花、編みぐるみ、ちぎり絵や折り紙、漫画)を知りたい、習いたいという人はたくさんいます。日本語教師は隣国のペルーやアルゼンチンに比べると需要は少ないですが、必要とされています。
文化
Q. 現地の人々の気質や考え方にはどんな傾向がありますか?
チリ人は、フレンドリーで、明るくて、愛情深いです。あいさつにそれがよく表れています。握手しながら、右のほおとほおをくっつけた瞬間に「チュ」とキスの音を鳴らします。友人どうしですと、ハグもします。人と人との距離が近いです。
また、会うと必ず “¿cómo estás?”(コモ エスタス)=「元気?」とききます。今朝も昨日もおとといも会ったとしても毎回ききます。そして、その人の家族も元気かどうか尋ねて、家族にもあいさつを送ってくれます。チリ人が愛情深いのは、人に関心があるからだと思います。
家族への情も深く、結婚しても、子供たちは両親をよく訪ねます。働いている間、子供を親にあずける家庭も多いです。
働き者の人も多くて、朝早くにバス停に行くと、たくさんの人が出勤のためバスを待っています。共働きの家庭も多く、仕事にたくさんの時間を費やしています。ただ、働き方が真面目ではなく、効率的ではないことが多いように思えます。
Q. 現地の食文化はどのようなものですか?
チリは小麦、砂糖、植物油を除いて、自給率が100%を超えています。野菜も果物もワインも豊富で、日本に比べて安いです。
フェリアという週に2回地域の特定の道路に200メートルから500メートルに渡って開かれる青空市場でいろいろなものを買うことができます。野菜や果物はキロ単位で買います。土がついていたり、虫食いのものがあったりするので、家に帰ってからきれいにするのに時間がかかります。肉もかたまりで大きく売られており、鶏肉は丸ごと買う方が安いです。肉も野菜も料理の下準備に時間がかかります。
主食はパンです。昼食がメインです。チリの家庭料理は、ダイナミックで美味しいのですが、外食は高くてあまり美味しくない所が多いです。料理の種類はあまりありません。豆類がメインの料理が沢山あります。
夕方にオンセという軽食を食べます。オンセでは、基本的にパンと紅茶です。パンのつけ合わせは、その時の家庭のお財布事情によります。チーズ、ハム、トマト、アボガド、卵、ジャムなどです。つけ合わせが二つか三つだったり、場合によってはバターだけだったりします。夕食もありますが、ほとんどの家庭がオンセだけですませています。オンセを準備するのは簡単なので、友達を家に気軽に呼んで、パンと紅茶を飲みながら、会話を楽しめます。
Q. 現地の人々はどのような生活習慣や宗教観を持っていますか? 現地特有のマナーなどはありますか?
家で靴をはいています。ベッドで寝ます。各寝室にテレビがあります。シャワーをよく浴びます。
炭酸飲料をよく飲みます。毎日飲んでいる人も大勢います。そのせいもあって、多くの人が肥満です。高血圧、糖尿病の人が多いです。紅茶もよく飲みます。水はあまり飲みません。果物が豊富でよく食べます。トマトとじゃがいもをよく食べます。
服はあまり流行に左右されません。女性はズボンを履いている人が多いです。アメリカからくる古着をフェリア(市場)で買って、楽しむ人も多いです。古着の中には、下着や靴、鞄、シーツなどもあります。
宗教は、2002年の調査によると、70%がカトリック、福音派、またはプロテスタントが15%、無宗教が8.3%です。どの地域でも教会が見られます。週末に教会に行く人も少なくなっていますが、います。町中の交差点などで、マイクやギターを持って布教活動をしているプロテスタントの人をよく見かけます。聖書や聖書の神に敬意があり、日常で、”Gracias a Dios”=「神様のおかげで」と言う人が多いです。
気候
Q. 現地はどのような気候ですか? 健康維持のために気を付けるべきことはありますか?
チリは南北に4,300kmと細長い国です。それで、北の砂漠から南の南極大陸までと気候も様々です。
北は砂漠気候、中部は地中海性気候、南部は温暖湿潤気候と亜寒帯気候、モアイ像があるイースター島は亜熱帯気候です。
私の住んでいる中部は、四季があります。乾燥していて湿気がなく、過ごしやすいです。雨はあまり降りません。夏は日差しがきついですが、影に入ると涼しいです。チリ人はあまり使いませんが、日傘が役に立ちます。日焼け止めは必須です。家の中は涼しいので、エアコンがなくても大丈夫です。
乾燥から守るためリップクリームやクリームを塗らないとかさかさになります。化粧水はこちらでは使う習慣がないので、日本から持ってこられることをお勧めします。一日のうちに気温差が20度以上になることがよくあります。1番下に着る服は半袖にし、その上にライトダウンや、カーディガンなど脱ぎ着しやすいものを着るといいと思います。
首都サンティアゴではスモッグがあります。呼吸器系が弱い方はお気をつけください。
冬は、多くの家庭が薪ストーブを炊くため、空気が汚染されます。田舎でも空気が悪くなります。最近は異常気象による花粉のせいか、アレルギーで苦しむ人が大勢います。チリの薬は日本人にとって強すぎるものが多いので、日本から薬を持ってこられることをお勧めします。
Q. 現地特有の風土病はありますか? 健康維持のために役立つ対処方法はありますか?
チリには毒蜘蛛(araña de rincón)がいます。毒は強く、死ぬ場合もあります。噛まれた場合は、すぐに病院に行って、4時間以内に抗ロキソセル血清を打つ必要があります。
予防は、蜘蛛のいそうな部屋の隅、ベッドの下やタンスの裏などを定期的に掃除し、見つかるたびに靴で踏みつけるなどして退治することです。
言語
Q. 現地の人々はどのような言語を用いていますか? 外国人にとって、現地の言語を学ぶ際に、どんなハードルがありますか?
スペイン語が話されています。チリ独自の慣用句やことわざを使った表現が好まれて使われるので、どういう意味なのか尋ねながら学んでいく必要があります。辞書にはのっていないからです。
早口の人が多く、日本でスペイン語を学習してからチリに行っても、最初は聞き取るのが大変だと思います。
スペイン語は動詞の活用が多いので、根気よく、間違いを恐れずに学ぶ必要があります。
少数ながらも、チリの北ではアイマラ語、南ではマプドゥングン語、チェドゥングン語、イースター島ではラパヌイ語、チリ全土にいるロマ(ジプシー)の人の間では、ロマネー語の一種のホラハネ語が話されています。
英語はほぼ通じません。
生活
Q. 現地の人々の生活水準はどうですか?
ここ20〜30年の間にチリの生活水準はとても上がりました。
私が初めてチリに来た24年前は、ずいぶん日本と比べて遅れていると思いましたが、今はあまり違いを感じません。24年前は、車を持っている家庭は少なく、冷蔵庫や電話がなく、外食をしたことがなかったり、家をきれいに飾ったりする余裕がない状態の家庭が多かったです。でも、今は車を持ち、家族のそれぞれが携帯やタブレットやコンピュータを持ち、家の中もおしゃれにし、外国へバケーションに行くという家庭が増えました。
同時に物価も上がりました。
家電製品や車、トイレットペーパーや文房具は、日本より高くて質も良くありません。ガソリン代は日本と同じぐらいですが、公共の乗り物運賃は日本より安く、40〜130円ぐらいです。
Q. 現地の人々の教育水準はどうですか?
義務教育は6〜13歳までの8年間です。その後、4年間の高等教育があります。大学や専門学校に行く人もいます。
義務教育の間も成績が悪いなら留年があります。留年になると、親は教育費がさらに1年分多くかかるので、頭を抱えていますが、子供の方はのほほんとしていて、恥ずかしいという感じもあまりなさそうです。
学校は、午前と午後の部に分かれているところも多く、午後からの部は1時〜2時に始まる所が多いです。午後からの部へ行く子どもたちは、夜遅くまで起きていて、昼近くまで寝ているので、心配になります。
広い運動場や体育館がない学校も多く、スポーツや芸術、文化教育といった面で遅れているように感じます。学校で歌を習わないためか、チリには意外と音痴な人がとても多いです。
Q. 現地の治安水準はどうですか? 外国人が特に気を付けるべきことはありますか?
治安は南米の中ではいい方でした。公共の乗り物を使って、夜9〜10時ごろに帰宅しても問題はありませんでした。しかし、2019年10月にチリ全国で暴動が起き、とても大勢の人が、スーパーやショッピングモール、店への破壊奪略行為を行い、内戦状態のようになりました。自然災害があるたびにも、いつも略奪行為が起きます。本当に物が足りないのではなく、混乱状態を利用して盗みを一般の人が行うということが起こっています。
マリファナなどの薬物の使用が多く、学校の近く、駅の近くや広場でも売買がなされています。昼間にすれ違った高校生の女の子からもマリファナの匂いがすることがあります。薬物使用者は身近にたくさんいる状態です。
多くの家は高い鉄格子で囲まれています。一階なら窓も鉄格子をつけていないと危ないです。それでも空き巣が入ったと良く聞くので、ますます自衛することになります。
家に車で帰った時に、ガレージの門扉を開けるために車を降りた時に、ピストルを突きつけられて車を鍵ごと盗まれる犯罪が増えています。
Q. 現地の住居や住環境の様子どうですか?
土地があるので、首都圏でも一戸建ての平家の家が今でも多く見られます。家も日本に比べると大きく、家具も日本より大きめです。たいてい庭があり、レモンやオレンジなどの果実がなる木を植えているお家があります。トイレとシャワー、洗面所が同じ空間にあります。二階建ての家だと、一階に訪問者用のトイレがあり、さらに二階にバス、トイレがある家が増えています。
都心では、高層のマンションがどんどん増えています。24時間管理人がいるマンションも多く、共益費がかなりかかります。
家賃は、場所によりますが、2LDKで3万円〜6万円ほどです。
Q. 現地の生活インフラ(水道・電気・ガス・インターネット)はどの程度整っていますか?
田舎でないなら、整っています。ガスは一戸建ての家では、ほぼプロパンガスです。シャワーを浴びている途中にガスが切れて、お湯が出なくなることがよくあります。
トイレは水洗ですが、トイレットペーパーを便器に流すと簡単に詰まってしまうので、トイレットペーパーを流さず、ゴミ箱に捨てるのがこちらの常識です。
インターネットも普及しており、月3,000円ぐらいで契約できます。
Q. 現地のレストランやファーストフード店、露店など食品を扱う店の衛生状態はどうですか?
あまり信頼できません。私も含め、外食してお腹こわしたという話をよく聞きます。レストランも露店も良い評価を得ていて、回転がいい所を利用するのがいいでしょう。
Q. 生活に必要な安全な飲用水はどのように調達しますか?
チリは日本のように水道水を直接飲める国です。アンデス山脈の雪溶け水といったら響きがいいでしょうか。硬水なので、初めて飲むと違和感がありますが、紅茶にあう水で、便秘の人にも効き目があります。
Q. 現地の交通事情や交通機関の様子はどうですか?
全国に鉄道はほぼ普及していませんが、高速バスは、路線と便数が多く、値段も安くて最新で快適なバスがそろっています。首都や大きな町から小さな田舎の村へ行くバスがほぼ毎日にあります。
地域のバスも路線と便数が豊富です。時刻表はなく、バスを20〜30分待ってやっと来たと思ったら、立て続けに2台来たということもあります。私の住んでいる街は、バスの運賃は40〜50円で、30〜40分かかる隣町とその隣町までは120円ほどで行けます。
決まった路線を走るコレクティーボという乗合タクシーもあります。路線上ならどこからでも乗れて、どこでも降りられて便利です。バスより少し高くて、タクシーより安いです。
Q. 現地の医療水準はどうですか? 医療費は高額ですか?
医療と薬はとても高いです。国民の保険制度がありますが、安く受けようとすると、待たなければいけないし、いい医療を受けられないことも多いです。何年も手術するのを待っている人、緊急で行ったのに、何時間、時には1日以上放置されたという話もよく聞きます。
執筆者:明田志麻
執筆年月:2020年12月