海外社会貢献者からのメッセージ
Q. 世界を活動の場とする社会貢献者にとって、この国はどのような場所ですか?
カナダは日本から遠いようでありながら、玄関口のバンクーバーまでは太平洋を突っ切って直行便で9時間ほどと、案外手軽に来やすい場所だと言える。 地図上では日本から近いアジアの国であっても、乗り継ぎでないとアクセスできない場所も多いことを考えると、大変訪れやすい国だと思う。
移民の国だけあり、人種もバラエティに富み、個人的には昨今騒がれているような差別に遭ったことはない。
カナダという国は10の州と3準州で成り立っている。ちなみに私はその内8の州と、1準州に行ったことがある。そういうわけで、州ごとに州政府があり、その政府にかなり独立した権限が与えられており、『カナダとは』と、ひとくくりにおはなしすることはできないが、私自身は現在アルバータ州のカルガリーに在住。アルバータ州だけで日本の国土の1.75倍の広さというスケールだ。
経済は石油に依存しているので、州経済はオイルの市場にかなり影響される。石油関係の仕事に就く方が多い。
また、カルガリーはカウボーイの町でも有名だ。毎年7月には、世界で一番すごい野外ショーというキャッチコピーのスタンピードというカウボーイのお祭りが一週間開催される。ロデオや、原住民の文化を残すイベントなど盛りだくさんの内容で、その時期は世界中から、このイベントのために観光客が集まる。夏には、そういった世界中から来られるゲストへのボランティア活動なども計画、実行されている。
その他には、カルガリートランジットの駅におけるボランティア(許可を得て)なども盛んだが、普段よりボランティアがいる時間帯は治安がよくなっていると、当局から感謝されるという話もよく聞く。
カナダはボランティア活動の先進国で、医療、通訳、教育、文化などの面で多くのボランティアの機会がある。また、家庭内暴力を受けた婦女や子供が身を寄せるシェルターなども多く、そう行った場所の、炊き出しや住居のハウスキーピングなどもボランティアで運営されている。カナダの語学学校で、語学留学カリキュラムを終えてからボランティア先を斡旋してもらうという形もある。ボランティア、これから行きたい都市名などを打ち込んで検索するとたくさんの社会貢献の機会があることに気付く。
文化
Q. 現地の人々の気質や考え方にはどんな傾向がありますか?
基本、カナダ人皆がファーストネイション(原住民)の方以外よそから来た移民であることを自覚しているので、差別を嫌い、友好的な態度の方が多い。英語を母国語としない方も多いので、他人のアクセントの強い英語にも寛容で聞き取ろうとする姿勢に好感が持てる。そういったわけで移民が増加してきている。
また、2016年には戦争から逃れるシリア難民を2万5千人も受け入れた。自ずと文化や考え方の違う人々とうまくやっていく術を持つ方が多い。昨今、欧州やアメリカなどでも、自国の雇用や福祉予算を守るために排他的な流れになってきている中、人道的で寛大な人が多い国だということが理解できるだろう。民間のNGOや個人も協力して彼等の支援にあたっている。なかなか国土が広いというだけでは説明のつかない人道的責任感や寛大さである。
Q. 現地の食文化はどのようなものですか?
移民の国なので、バラエティ豊かな本場の味が楽しめる。
カナダの夏は短いので、夏は思い切り外で楽しみたい方が多く、BBQに相当のこだわりがある。BBQグリルのない家はないと行っても過言ではない。
私の住むアルバータは特に肉牛の飼育が盛んなので、ビーフを食べる機会が多い。日本で見慣れている薄切り肉は、こちらではアジア系のスーパーに行かないとない。基本は塊肉か厚切り肉である。
地ビール産業(マイクロブルーワリー)も盛んで、最近では蒸溜所にレストランを併設しているところが多い。移民の国なので、ベルギー人やドイツ人など各国の手法を持ち込んで作っているので、本格的に欧州風のビールを楽しめる。
他にはオンタリオではアイスワインが有名。ぶどうが凍ることによって糖度が上がり、美味しいワインができる。甘く主張が強いので食後ワインに分類される。お土産の定番だ。
ベジタリアンやビーガンも一定数いるので、食制限がある人にとっても大体のものは調達できる。普通のレストランでもベジタリアン用のメニューも何品かはあるところが多い。
中東のケバブや、メキシコ料理、モンゴル鍋レストラン、もちろん日本食や韓国、中国料理に加え東南アジアのタイ料理やベトナム料理のレストランも多い。
ただし、サービスに対してチップが15%-20%期待されるので、それがなんとも日本人にとっては慣れないものがある。チップがなければもっと外食してしまいそうなので私にとってはこれで良いのだと思うことに。
Q. 現地の人々はどのような生活習慣や宗教観を持っていますか? 現地特有のマナーなどはありますか?
現地の人といっても移民がそれぞれの様式を持ち込んで生活しているので一括りにはできない。ただ、一般的に日本人と似ていて、すぐ謝る。友好的で近づきやすい人が多い。
大きく分けてフランス系と英国系で、ケベック州のフランス系の方々はカナダから独立したいと望むほどにルーツに誇りを持っている。フランス色が強く北米でありながらヨーロッパのような街並みだ。カトリックが多い。
英国系は、もともとクリスチャンではあるが、無宗教、無神論だという方も多い。インドからの移民もますます多くなっており,ヒンズー教やシークの方ともよく出会う。カルガリーにはタイのお寺もある。
私の住むアルバータ州では最近初めて女性のイスラム教徒が副知事に選ばれた。これはカナダで初めてのことだ。
移民の国なので、お互いの宗教や文化を尊重することによって調和を保つという文化が出来上がっていて、新参者にとっても居心地が良い。
カナダに来たからにはやはり、抑圧、迫害されてきた原住民の歴史や芸術、文化を学べる博物館などに行って理解を深めたい。カナダにはクリー族、オジブウェ族、ブラックフット族など挙げきれないほど多くの部族があり、若者は学校で英語教育を受けるので、部族の言葉を話せない若者も多い。それぞれの文化や言語を残すことは緊急課題でもある。
気候
Q. 現地はどのような気候ですか? 健康維持のために気を付けるべきことはありますか?
冬が長い。冬には日が短くなり、ピーク時には朝9時ごろに明るくなり4時ごろには暗くなるという生活。冬季うつになる人も多い。そのためカナダでは、多少余裕のある家庭は、皆こぞって冬に暖かいカリブやハワイにバカンスをしに行く。
ただし、カナダの家の中は断熱がしっかりされており、セントラルヒーティングで常に一定の温度が保たれているので、快適に過ごせる。カナダの中ではバンクーバーが比較的温暖で、そのためバンクーバーやバンクーバー島あたりが年金受給者には人気。
逆に、夏のカナダは爽やかで大変過ごしやすい。夏至の頃は夜11時まで明るく、朝5時前には日が登る。冬とはうって変わって1日を目一杯楽しめる。私の住むカルガリーは最高気温30度あたり。空気は乾燥しているのでカラッとしている。夜は温度が下がるので、上着が必要。5大湖に近いオンタリオ州ではその地形柄、日本の夏に似ていて蒸し蒸しする。
とにかくカナダは国土がロシアに続いて2番目に大きいので気候も一概に言えない。目的地を絞ってから詳しくリサーチするのが一番効率的。
Q. 現地特有の風土病はありますか? 健康維持のために役立つ対処方法はありますか?
冬が長いので冬季鬱病(季節性情動障害)を発症する場合がある。ビタミンDを予防目的に摂取する人が多い。
また、寒波が到来するとマイナス30度の世界となる。防寒着はカナダに来てから調達した方が適したものが買える。日本からはヒートテックやメリノウールなどの肌着を持って来るのが良いが、防寒着(アウター)は通用しない。ブーツも滑りにくく暖かいいいものがある。冷えに対抗するために冬は積極的に根菜をとる。
言語
Q. 現地の人々はどのような言語を用いていますか? 外国人にとって、現地の言語を学ぶ際に、どんなハードルがありますか?
国語は英語とフランス語。買い物をすると、どのパッケージにも英語とフランス語表記がある。私もパッケージを見たら、簡単なものはフランス語でも読んで理解することができるようになった。(もちろん発音しなさいと言われたら無理!)
ケベック州に住むなら、フランス語ができないと生活やコミュニケーションが難しい。現地でボランティアすることのメリットとして、現地の人々と力を合わせて活動するので、結果として活きた英語やフランス語が身に付くことがあると思う。
また、現地の人々と活動することによって、彼らの考え方なども吸収することができる。考え方や文化を知ることは結果言語学習にプラスの影響を与えることにもなる。目的地を決めたら自ずと英語圏かフランス語圏かがはっきりするので、その際に予習をすることが近道。
個人的にカナダ英語は日本人にとって聞き取りやすいと思う。発音はアメリカ英語に近いが、スペルはイギリス英語に近い。 ハードルは、どの言語学習にも言えることで、やはり、恥ずかしがらずに言語をコミュニケーションの道具と捉えて、積極的に会話に参加すること。誰も自分に完璧を期待していないということを覚えておこう。
大事なのは、語学力よりも伝えたいことのメッセージ性であることを合わせて覚えておきたい。
生活
Q. 現地の人々の生活水準はどうですか?
生活水準は高い方だ。
夫婦共働きの家族が多い。カナダに住む15歳から64歳の人口のうち73パーセントが何らかの職についている。その結果、住居や給料、ワークライフバランスの指標も高い方だ。(OECD Better Life index 調べ)
年間最低2週間〜長い人は6週間くらい会社から休みをもらえる(長さは会社や勤続年数による)ので、休暇は旅行に出かけたり、家でメンテナンス作業をしたりする。
家の周りを散歩しても駐車場にキャンパーや、キャンプングカー、またトレイラーを持っている家の多いこと! 贅沢品という括りではなく、必需品とみているようだ。それだけでもカナダの生活水準の高さが伺われる。
国立公園、州立公園があちこちにあり、アウトドア愛が強い。公園のメンテナンスも行き届いている。
Q. 現地の人々の教育水準はどうですか?
教育水準も高い方だ。義務教育期間は基本6〜16歳。州によって教育制度は違う。
大学の進学率は2018年のデータによると約69%。日本が約64%ということからも割と高い方だ。さらに、一度社会人になってから学びたい方向性が決まり、大学へ戻るという選択肢もよく見聞きする。
ホームスクールの支援も充実している。私の知り合いは子供をホームスクールで育てているが、遠隔のサポートや施設なども充実しているようだ。
3年ごとに行われる国立教育政策研究所の調査によると、カナダの学力は常にOECD加盟国で上位10位には入る。
課外活動ではホッケーやサッカー、スケートなどスポーツの習い事に力を入れている家庭が多い。
Q. 現地の治安水準はどうですか? 外国人が特に気を付けるべきことはありますか?
銃規制は厳しいのでアメリカより銃犯罪はかなり少ない。
ただし、2018年から大麻が合法なので、明らかに大麻の中毒者(または薬物中毒者)には近づかないようにする。
私の住むカルガリーの話をすると、平日昼間はダウンタウンのオフィス街は治安が良いが、逆に夜間は人っ子一人いなくなるので浮浪者がうろうろしたりと危険になる。治安は同じ場所でも時間帯や曜日で変わることから、やはりいざ住む前に事前調査は欠かせない。
暗くなってからの公共交通機関などもなるべく避けたい。とにかく国土が広いので、目的地が決まってから、外務省のホームページや、現地の人に生の声をリサーチして対策を講じたい。また、住むエリアなどもネットなどで決めずに行って、実際にエリアをみてから決めた方が良い。現地の不動産会社が情報を持っている。
緊急時に警察、救急、消防に連絡する場合は共通で911を覚えておく。落ち着いて、居場所や目印になる建物を伝える。大都市は日本語の通訳のサービスもあるようなので、とりあえず対応できるか聞いてみたら良いだろう。
Q. 現地の住居や住環境の様子どうですか?
カナダは世界住みやすい都市ランキングでも上位にくる都市がいくつかある。そのうちのひとつ、バンクーバーは6位だった。(エコノミスト誌 2019年調べ)家賃でいうとバンクーバーの家賃はかなり高騰していて、バンクーバー市内での1ベッドルームの平均は月2,100ドルで空室率は1%だという事なので、バンクーバー市内に住むのはなかなか狭き門である。 そういったわけで、貯金を取り崩しながらの生活をお考えならば、来る前に、州や、都市ごとの家賃の平均などを調べる事も重要になってくる。
ちなみに私の住むカルガリーはというと、なんと世界5位!家賃もバンクーバーほど高くなく、都市のサイズにお手頃感があるからではないかと踏んでいる。物価も必需品は手頃。ロッキー山脈まで車で1時間ほどで、市内のあちこちから絵葉書の景色のようなロッキー山脈の景色を見ることができる。
家は断熱がしっかりされているので大変住みやすい。床はカーペットやフローリングが主流。日本と同じで玄関で靴を脱ぐ。お風呂はシャワーですませる方が多いが、バスタブ付きの家も多いのでお風呂に入ることも可能。ただ,光熱費込みで家を借りるか、部屋借りする場合には、トラブルを避けるために家主の許可を得た方が無難だ。地下がある家が多い。地下は、夏は涼しく冬は暖かい。
Q. 現地の生活インフラ(水道・電気・ガス・インターネット)はどの程度整っていますか?
インフラは日本と同レベルの水準。
ちなみに電気も日本で使っていた電化製品を私は問題なくこちらで使っている。コンセントの形状も同じ。
ガス代は天然ガスがあるのでこちらの方が若干安い。
インターネットはTELUS 、BELL 、SHAWという会社がビッグ3と言われていて、その時々でプロモーションをしているので入る前に調べると良い。私はちなみにTELUSで毎月65ドル払っている。回線速度、ダウンロードともに問題なし。料金は競争が少ないので、日本よりやや高めだ。
無線LANも普及しているので多くの場所でインターネットに接続が可能だ。カフェやファーストフード店でも大体無料で接続できる。
Q. 現地のレストランやファーストフード店、露店など食品を扱う店の衛生状態はどうですか?
カナダに来たからにはコーヒーとドーナッツのチェーン店ティム・ホートンズには行っておきたい。
カナダ人が愛してやまないカフェだ。コーヒーのサイズもSサイズなら1ドル前後と、日本で缶コーヒーを買うのと変わらない値段でコーヒーを楽しめる。
衛生にもとても厳しい。店のスタッフはみんなネットのついた帽子をかぶっている。その他のファーストフード店は大体アメリカにあるものをイメージしてもらったら良い。
露店の文化はあまりない。たまにファーマーズマーケットでポップアップショップが出るくらいだろうか。夏はフードトラックが出るようなイベントがある。許可をとらなければできないので、衛生面では問題ない。
Q. 生活に必要な安全な飲用水はどのように調達しますか?
水道水を問題なく飲むことができる。そして美味しい。(わたしはロッキー山脈からくる水を飲んでいる)。ミネラルたっぷりの硬水なのでやかんの底に白い膜が沈んでいることもある。
公共の場所は給水所があるところが多いので、エコのためにもマイボトルを持ち歩きたい。また、執筆者の家も含めて、最近の冷蔵庫は大体浄水装置がついており、そこから冷水を汲むこともできる。スーパーに行くと、ブリタなども買えるので、よほどこだわりのある人は浄水をして飲むと良い。
Q. 現地の交通事情や交通機関の様子はどうですか?
大体の都市にはバス、大都市には電車という公共交通機関がある。ただし、国土が広く人口は日本より少ないので、全てをカバーしているわけではない。
地方に行きたい場合はレンタカーや、グレイハウンドバス(長距離バス)を使う。
住むならキジジなどのサイトで中古車を購入することもできるが、こちらでの運転歴が無いと、保険が高額。わたしもカナダに来て1年目などは無料の車をもらったのに保険代が年間17万円くらいだったという経験がある。日本での運転歴は8年ほどあったのにも関わらずだ。保険は日本よりも高い。人口が日本より少なく、国土が広いことを考えれば納得だ。
Uber配車サービスは都市によってあるところとないところがある。その都市のタクシー協会の猛反発ぶりによるらしい。行く前にその都市のUberの有無を調べてみよう。
Q. 現地の医療水準はどうですか? 医療費は高額ですか?
もしカナダで税金を納める(つまり働く)なら、医療が無料というありがたい制度がある。 税金は決して安くないが、その分いざという時に医療が無料という安心感は果てしなくある。ただし、歯科や眼科などはこれに含まれず。会社の福利厚生の保険などで、この分野をカバーするというのが一般的。
保険がなく、大規模な歯の治療が必要な人は、旅行も兼ねてメキシコなどに私費で歯の治療に行くケースもちらほら聞く。ただし、それで失敗して、カナダで行き直して余計にお金やエネルギーを費やす場合もあることを覚えておこう。一番良いのは、カナダに来る前に歯の治療、目の治療をしっかり済ませてくることだと思う。
医療水準は高い。カルガリーには特に有名ながんセンターがある。
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執筆者:S.L
執筆年月:2020年7月